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インタビュー

Buju Banton

不屈のソウルを持ったラスタは祈りを捧げ、教えを説き、時に俗っぽいことも歌う──そんな多面的な彼の魅力を見つけに、20年分のキャリアを振り返ってみよう

〈明日〉を豊かにする音楽


  現在、第一線にいるラスタ系のレゲエ・アーティストで、もっとも有名なのは彼かも知れない。ブジュ・バントン。73年、逃亡奴隷の末裔である誇り高きマルーンの一人として生を受けた彼は、10代でデビューして以来、アルバムごとに確実に変化、成長し、名作と名曲の数々をコンスタントに届けてきた。〈貴公子〉とも呼ばれる端正な顔立ちと、一度聴いたら忘れない声、そして強く信ずるものがある人特有の、頑固な面と取っつきにくさを併せ持つ。

 取材当日、電話口の貴公子はこちらが面喰らうくらい上機嫌。開口一番、筆者が通算9枚目にあたる『Rasta Got Soul』を気に入ったかを確認し、〈日本のファンが待っていた内容だと思います〉と請け合うと、「日本のみんなが気に入ってくれることがいちばん大事だ」と、大声で宣言した。

『Rasta Got Soul』は、3年前にリリースされたダンスホール寄りの『Too Bad』と対を成すルーツ・レゲエ・アルバムという触れ込み。だが、蓋を開けてみれば、ルーツ・レゲエの枠に囚われない、開放的なサウンドで満ちている。3年前に「完成している」と発言していたアルバムと同一の内容なのか訊ねたところ、「いや、かなり変えているよ」との答えが返ってきた。

「あの後に受けたインスピレーションを記録した新しい曲も入っている。完全に入れ替えた曲もあるし、タイトルを変えたり、言葉を足したりした曲もあるね」。

 結果、ルーツ・レゲエを基調にしたインターナショナルな作品に仕上がっている。

「今回、自分の進化を見せながらみんなが共感できるインターナショナルなレゲエ・アルバムをめざした。オーセンティックなルーツ・ロック・レゲエに他のフレイヴァーが入った感じに仕上がったと思う」。

 アルバム・タイトルも秀逸。デビュー当時は、童顔に似合わない野太いDJで注目を集めたが、長いキャリアの間に歌うようにDJをするシングジェイ・スタイルの割合が増え、近年のステージ上ではじっくり歌を聴かせることも多くなっている。新作でも素晴らしい歌唱力を発揮しているので、〈ソウル(魂)を持ったラスタ〉と、〈ソウルフルなラスタ〉という意味の両方をタイトルに持たせたのでは、と読んでいたのだが、「いや、最初の〈ソウルを持ったラスタ〉という明確な意味しかないよ」と、あっさり否定されてしまった。

 最新ヒットのひとつである“Magic City”は、ジャマイカの首都・キングストンをテーマにしているという前情報を確認したら、「いや、違うよ」とこちらもばっさり。

「日本の街でも、NYでも、ロンドン、ベルリン、モスクワでもいいんだ。自分がいる場所で立ち上がり、進んで行くのが大切なんだよ。太陽が昇る時間は場所によって違うから、君の今日は俺の明日かもしれない。つまり、〈陽が昇った自分にとっての明日〉が重要なわけで、それぞれの居場所で精一杯その〈明日〉を豊かにして輝かせるのは、自分次第なんだ」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年04月30日 16:00

更新: 2009年04月30日 18:13

ソース: 『bounce』 309号(2009/4/25)

文/池城 美菜子