インタビュー

MAXWELL(2)

やっと一人前の男になれた

 そう、彼自身が〈俺たち〉と表現するように、今回のアルバムは基本的にライヴ・メンバーと同じ10人編成のバンドで録音されているのだ。

「ステージでは、例えば60%はリハーサル通りにやって、あとの40%は何が起きるかわからないままに任せる、っていうふうにあまり考えないようにしている。アルバム作りもそれに似ていたね。みんなで曲作りをやった時も、各々の役割分担は予定通りなんだけど、曲のニュアンスや雰囲気などは、どこからともなく現れたりしたんだ。まるでジャズみたいに、すべてを知りすぎない感じ。神様とかそういうものが降りてきた時のためにスペースを空けておく、っていうのは大切だね。意識していない何かが起こって、何かが生み出される……そんな環境にいられるというのを知った瞬間は幸せだったよ」。

 そうした行程を経たからだろう、今回のアルバムはいままでにない開放感に満ちている。「大切な人を手放すことについて歌ってる」という“Pretty Wings”のように、楽曲ごとのテーマには哀しいものもあるが、作品全体に肩の力の抜けた明るさをもたらしているのは、マックスウェル自身が感じているであろう歌う喜び、音楽をやることの喜びに違いない。そのような創造熱に火が点いた結果、今回の『BLACKsummers'night』は3部作の1枚目という体裁になっている。これはリスナーにとっても嬉しい誤算じゃないか。

「今回は過去について歌ってる。つまずいたりしながら得てきた新しい発見や啓示なんかについてだね。次の『blackSUMMERS'night』は、現在を味わっているという感じだな。つまり希望に満ちていて、気分を昂揚させてくれるポジティヴなアルバムだね。3枚目の『blacksummers'NIGHT』はインストゥルメンタルが主になる。スロウなメロディーで愛を歌っているよ。今回の3部作からは、過去の作品とは確実に違う何かが感じられる。それは俺が成熟したことからくるのかもしれないね。ここ数年、人間関係や恋愛なども含めて、俺は起伏の激しい私生活を送ってきたけど、大事な決断なども経て、やっと一人前の男になることができたんだ。だからもう音楽を通して〈男らしさ〉を表現したり、性別に頼ったりもしない。ただ、感じてほしいのは〈俺がそこにいる〉ということなんだ」。

▼マックスウェルが楽曲提供&客演した作品を一部紹介。

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掲載: 2009年07月29日 18:00

更新: 2009年07月29日 18:43

ソース: 『bounce』 312号(2009/7/25)

文/轟 ひろみ