MAXWELL
世界中を酔わせたファルセット・ヴォイスが8年ぶりに帰ってきた。黒い夏の夜にたゆたう真摯なエモーションとソウルフルな放熱……沈黙の答えはここにある!?
実に8年ぶり。合間にナズの“No One Else In The Room”(2004年)があったとはいえ、長い不在には変わりなかっただろう。それでもマックスウェルは帰ってきた。セクシーな野性味と芸術家肌の知性をアピールしていたトレードマークのアフロヘアは剃り落とされたが、彼の本質はそもそも外見や目先のイメージとはかけ離れたところにあったのだから、肝心なのは作品そのものである。ついに届けられたニュー・アルバム『BLACKsummers'night』の素晴らしさは言うまでもないが、リリースの初週に易々と全米1位を獲得している様子を見れば、彼がどれだけ多くの人に待たれていたのかも察せられようものだろう。
エモーションを伝えること
「何よりも完璧に仕上げたい、それが最初の気持ちだった。だけど作品が出来上がっていくプロセスで俺が学んだ教訓は、〈人生は生きることが先決で、意味付けするのは後でいい〉ということ。俺にはその順番がいちばんしっくりくるんだ。このアルバムでいちばん大切にしたのは、〈すべてのピッチを寸分の狂いもなく仕上げる〉とかいうテクニック的な問題じゃなくて、そこにあるエモーションを伝えることだったよ」。
その言葉に対し、ファースト・アルバム『Maxwell's Urban Hang Suite』からソングライティングに参加してきたプロデューサーのホッド・デヴィッドは以下のように付け加える。
「今回は音楽の根底を流れているパワーみたいなものを求めていた。ただ単に〈ナイスな音楽を作る〉ということじゃなくてね。直に感じられる音楽をめざしたんだ。粗めの部分を見せる、っていうの? いつもよりも刺激的で、いつもよりダーティーなものにしたかった。繊細なところは少なめにしてね」(ホッド・デヴィッド)。
どちらかと言えば完璧主義者で、精緻に全体像を組み立てることで頭のなかの青写真を正確に音に変えていく人。マックスウェルに対してはそういう(勝手な)イメージも抱いていた人は多いかもしれない。いずれにせよ、彼が現在の心境に至ったのは、2008年に久々のライヴを行ったことの影響も大きいようだ。
「ライヴ・ショウは俺の世界観を変えてくれた。ホッドやステージに立つ仲間のみんなもそう思ってくれていたと思うけど、ライヴをすることによって新しい俺たちが引き出されたように感じたんだ。〈そうなんだ、この感じを求めていたんだ〉っていうことが身体でわかったり。その興奮している感じ……とでも言うのかな、ライヴから得られた雰囲気は、今回のアルバムにも込めることができた。この『BLACKsummers'night』では、自分のもっと根っこにあるものを出せたと思うんだ」。
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