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インタビュー

GOGOL BORDELLO 『Trans-Continental Hustle』

 

音楽はどこから来て、どこへ向かう? 大陸を横断して、足跡の数だけ新しい何かを鞄に詰め込んで、奴らは駆けていく。いまから君の目の前を凄い勢いで走り抜ける連中、その名はゴーゴゴゴ……ゴゴボボボボボボ……

 

GogolBordello -A

 

もっともフェスに相応しいバンド

インターナショナル・ジプシー・パンク・バンド、ゴーゴル・ボルデロの5枚目のアルバム『Trans-Continental Hustle』は、2010年のロックとワールド・ミュージック、その双方においてもっとも重要な作品だ。これまでジプシー民族、および世界のさまざまなルーツを持つ移民たちによるミクスチャー・パンクを作ってきた彼ら。プロデューサーにリック・ルービンを迎えた今作は、そのリックの代表作の数々──古くはカルトやジョニー・キャッシュ、故ヌスラット・ファテ・アリー・ハーン、最近ではゴシップの最新作を初めて聴いた時の感触=〈これは間違いなくブレイクするぞ!〉というマジックが充満しているのだ。要するに〈ミシトー!〉(ロマニ語で〈最高!〉)である。

ゴーゴル・ボルデロはカイゼル髭にガリガリの身体、まるで旧ソ連の脱走兵のようなルックスのウクライナ人ヴォーカリスト、ユージン・ハッツにより、98年にNYで結成された。ユージンはウクライナ初のパンク・バンドのギタリストだった父とジプシー民族の血を引く母の間に、ウクライナの首都キエフ郊外で72年に生まれている。86年にはチェルノブイリ原発事故に遭い、以後数年間、東欧各地の難民キャンプを転々とした。やがて当時の共産主義体制下に自分の存在場所はないと見切りをつけ、家族と共に難民ヴィザを得て、アメリカに移住。そしてゴーゴル・ボルデロを結成。最初のライヴはNYのロシア料理レストランでの結婚式パーティーだったという。

レストランや路上からライヴハウスやホールへと活動の場を広げるうちに、ロシア人のヴァイオリニストとアコーディオニスト、イスラエル人のギタリスト、香港人とタイ系アメリカ人の女性コーラス隊、エクアドル人のパーカッショニスト、エチオピア人のベーシスト、アメリカ人のロック・ドラマーが加わり、人種の坩堝NYならではの9人組多国籍移民バンドとして成長していった。2005年にはスティーヴ・アルビニ、2007年にはヴィクター・ヴァン・ヴァットというオルタナティヴ・ロックの両雄をそれぞれプロデューサーに迎えてアルバムを発表。そしてゴーゴル・ボルデロはトランスコンチネンタルに(=大陸を股にかけて)ブレイクしはじめたのだ。米国のメディアは〈地球上でもっともフェスに相応しいバンド〉と評し、日本でも2008年の〈フジロック〉、2009年の〈サマソニ〉に出演を果たした。さらにマドンナは初監督の映画作品「ワンダーラスト」の主役にユージンを抜擢し、グッチはユージンをヒントとしたロシアン・ロックなメンズ・ファッション・ラインを発表している。

 

とんでもなく革新的な変化

そして、待望の新作『Trans-Continental Hustle』だ。ジプシー女性の慟哭のようなヴァイオリンと哀愁のアコーディオンをサウンドの要にしながら、重心の低いドラムスとレゲエを思わせるふくよかなベース、さらに中南米の熱いパーカッションとチアリーダーの如き女性コーラス隊──そんなカオスのなか、ユージンの歌声はツバが目の前に飛んできそうなほど生々しい。リック・ルービンの魔法か、それとも彼らが大陸を股にかけてハッスルし続けてきたせいか、一つ一つの音がこれまで以上にキャラ立ちしている。

50曲以上の新曲から厳選された曲も粒揃いだ。1曲目は、ライヴでは以前から歌われていた東欧ジプシー民謡“Pala Tute”。2007年に行われた〈Live Earth〉でマドンナのステージにゲスト出演したユージンが“La Isla Bonita”とメドレーで歌った曲である。

「ずいぶん長いことプレイしてきた曲だ。旅に送り出してくれるような曲であり、レコードの幕開けにはもってこいの曲に思えた。歌詞の内容はシンプルなラヴストーリーで、それもジプシー民謡の特徴だ。今回のアルバムにラヴソングがたくさん入っているのは大陸を股にかけたロマンスが発生していたせいだ。それも、けっこう激しいやつが。何もかもが大陸を股にかけた大騒ぎだったのさ」(ユージン:以下同)。

アルバムの中盤以降には新たな大陸を股にかけた要素、ブラジル北東部の伝統ダンス音楽フレーヴォがたっぷりと聞き取れる。これはユージンが親友マヌー・チャオに影響されてブラジルに暮らしはじめたことによる。リオのファヴェーラ(スラム街)のサンバ学校でさまざまなサンバを学び、北東部ペルナンブーコ州のカーニバルでフレーヴォを吸収したという。

「ブラジルには稲妻のような力がある。それに打たれてしまったら、後はもうどうしようもない。恋に落ちるのと同じことだ。何が起きているのやら自分でもさっぱりわからない。とにかく、こう……やられちまうんだよ。あの国はルーツ音楽の宝庫だし、人々もそれを大事にしている。オーガナイズされていないメチャメチャなところがあるのも魅力だ」。

大陸を股にかけてNYに集まった9人が、現代の祝祭の場とも言える音楽フェスに出演し、さらに大陸を股にかけハッスルし、新たな音楽を生み出す。何とも不思議なサイクルだ。

「オレには興味深いんだよ、別に自然災害で住処を追われたわけでもないのに、人々がどんどん旅をしているといういまの世の中が。2つや3つの文化を股にかけて生きていくことを何とも思わずに軽やかにこなしている人が大勢いる。それはとんでもなく革新的な変化だ。それをあたりまえに思いながら育つ人間が増え続け、またその進化を推進していく。その様が『Trans-Continental Hustle』なんだ」。

インターネットを使えば自宅を一歩も出ずに世界中の音楽を享受し、あたかも大陸を股にかけた旅をしている気分になれる現在。ユージンたち移民のパンクスはそれに否を唱え、あくまでもみずからの足で稼いだ音楽を作り続ける。その最新の成果が『Trans-Continental Hustle』。これは2010年、もっとも切れ味の良いロックでありワールド・ミュージックである。

 

▼ゴーゴル・ボルデロの作品を紹介。

左から、ライヴ盤『Live From Axis Mundi』(SideOneDummy)、DVD化されたばかりのドキュメンタリー「Non Stop: A Gypsy Punk Documentary」(Knitting Factory)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年06月16日 21:50

更新: 2010年06月16日 21:53

ソース: bounce 320号 (2010年4月25日発行)

インタヴュー・文/サラーム海上