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インタビュー

RUSKO 『O.M.G.!』

 

賛否両論を招く先行バズで仕込みもバッチリなM.I.A.の新作『/\/\/\Y/\』だが、肝心のサウンドに何を期待するかはまた別の話だろう。そんな話題作において、初顔合わせながらもシングル曲“XXXO”などのプロデュースを担っているのがこのラスコだ。同じくM.I.A.と組むことによって地下から這い出したブラックスター同様に、彼もまたディプロの見立てでマッド・ディセントと契約を交わした気鋭の才能である。

ただ、ラスコが決してディプロの威光にあやかって出てきた名前じゃないということは、ここ数年のダブステップ~ベース・ミュージックを少しでも追いかけている人なら先刻承知だろう。重鎮のピート・トンやA・トラック、スクリーム、そしてディプロら多くのDJから支持を得て、さまざまなフィールドを横断するキラー・チューンになった2007年の“Cockney Thug”以来、彼はダブステップを拡張する存在として期待を集めてきた。昨年はキッド・シスター“Step”のプロデュースを任されるなど、着実なステップアップの結果としてマッド・ディセントとの契約に至ったのである。

リーズで育ったラスコは、ギターやマンドリンを弾く母親の影響で幼少時から楽器に親しみ、同時に地元のサウンドシステムが鳴らすレゲエ~ダブを浴びて大きくなったという。ティーン時代には「4トラックのテープレコーダーを持ってたし、母親のPCに入ってたドラムマシーンで遊んでた」とも語るが、そんな環境で育まれた感性は、やがて移り住んだロンドンで花開くことになる。デジタル・ミスティックスなどを通じてダブステップにのめり込んだ彼がDJを始め、その界隈で名を上げるのにそう時間はかからなかった。

「ロンドン北部のアフリカンやカリビアンのコミュニティーにはダブ・カルチャーが浸透していた。ロンドンのダブステップ・アーティストは9割方がUKガラージを基盤にしていて、2ステップ・サウンドの影響下にあるんじゃないかな。いまのダブステップはファンキーな80sサウンドやエレクトロを採り入れたり、トイボックスを使ったりしてる。ヴァラエティーがあっていいことだと思うよ。俺のトラックも、ディスコで流れそうなファンキーな曲からレゲエまで幅があるしね」。

その言葉はそのまま、今回リリースされた初のフル・アルバム『O.M.G.!』についての説明になっている。金属的で凶暴なシンセの跳ね回る先行シングル“Woo Boost”があったかと思えば、ロッド・エイジアンを迎えた“Rubadub Shakedown”はスモーキーなレゲエだし、レッドライトと共作したグライミーな“Scarewear”もある。そして、ダーティー・プロジェクターズのアンバー・コフマンを招いた“Hold On”はまさに往年の2ステップ調で、例えばロミーナ・ジョンソンの“Movin' Too Fast”あたりを彷彿とさせるアーバン・トラックだ。

「『O.M.G.!』ではベース・レイヴ・ミュージックをやっていて、ダブステップよりもっとアップテンポな曲が多い。スピードは同じなんだけど……もっとクレイジーなのさ。みんなが楽しめるアルバムになってると思うよ」。

他にもチューン・ヴォイスをアクセントにしたロボステップ“Dial My Number”、Terukadoばりのジュリアナ・シンセが騒ぎ立てる“Kumon Kumon”などヘヴィーでアッパーな楽曲がひしめき、さらにはグッチ・メインやベン・ウェストビーチ、クルッカーズとのコラボもあって、まさしく〈Oh, My God!〉の連続。恐らく一面的になりつつあるダブステップのイメージで捉えられてはもったいないほどの完成度だ。その下世話な振り幅の広さは、昨今のテクノ・オリエンテッドなダブステップを礼賛する向きにはあまりにも享楽的に響くのかもしれない。しかしながら、ラスコがレゲエ~ジャングル~ドラムンベース~ガラージ~グライム~ダブステップと進化してきたUKのサウンドシステム文化を現在進行形で拡張しているのは間違いないだろう。

なお、彼は〈フジロック〉への登場も決定している。お出かけになる方は、ぜひバカになって帰ってきてください。

 

PROFILE/ラスコ

85年生まれ、UKはリーズ出身のクリエイター。地元のサウンドシステムでレゲエ/ダブに親しむなど、幼少期から音楽に囲まれて育つ。大学卒業後にロンドンに移り住んでDJとしての活動を開始し、2006年にキャスパの主宰するダブ・ポリスからデビュー・シングル“SNES Dub”をリリース。翌年にはキャスパとのコンビでミックスCD『Fabriclive 37』を制作し、前後して発表したEP『Babylon: Volume 1』からの“Cockney Thug”がフロア・ヒットを記録する。キッド・シスターやリトル・ブーツ、プロディジーらのリミックスを経てマッド・ディセントと契約を果たし、このたび初のフル・アルバムとなる『O.M.G.!』(Mad Decent/Downtown/HOSTESS)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年07月01日 13:23

更新: 2010年07月07日 19:12

ソース: bounce 322号 (2010年6月25日発行)

インタヴュー・文/出嶌孝次