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インタビュー

LONG REVIEW――SEBASTIAN X 『僕らのファンタジー』

 

砂原良徳_J170

〈ハレとケ〉という概念がある。ハレは祭りや儀式などの非日常を、ケは日常の日々をさす。こんなことを思い出したのは、SEBASTIAN Xの新作『僕らのファンタジー』が“フェスティバル”という曲で始まるからだ。現代の音楽ファンにとって、ハレの場の象徴であるフェスティヴァル。しかし、そんなタイトルの曲で永原真夏が高らかに謳うのは、あくまでも〈ただの平日〉と、そこに漲る活力。そしてチンドン楽団みたいに賑やかな曲は〈そして音楽は続くだろう〉と繰り返されて終わる。言うなれば、この曲は音楽の力で日常に祝祭感を見い出そうとする――ハレとケの場を繋ぐだけでなく、強力なエネルギーで両者を撹拌するような音楽。引いてはそれが、彼女たちの音楽に対する筆者のイメージでもある。

実際、彼女たちの鳴らすサウンドはお祭りのように華やかだ。鍵盤が元気いっぱいに躍動し、リズム隊はカラフルなビートを弾けさせる。曲によってはスティールパンやホーン隊、お囃子も採り入れて賑やかに。そして何より、物凄い声量を持つユニークな永原のヴォーカル。それらは実にポジティヴで明るく、ハッピーだ。

その一方で歌詞では、平易な言葉遣いで日常生活からイマジネーションを膨らませている。何しろお風呂場から国際情勢に想いを馳せる“DUB 湯”なんて曲もあるくらいだ。歌詞の世界でも〈ハレとケ〉が混ざり合っている。さまざまな音楽的要素を吸収し、エネルギッシュに放出する彼女たちのスタンスはソウル・フラワー・ユニオンやミドリ、tobaccojuiceなどに通じるものもあるが、いやはや、型破りなバンドが出てきたものだ。

 

カテゴリ : ニューフェイズ

掲載: 2010年07月28日 18:00

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