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インタビュー

KREVA 『GO』



未開の場所に踏み込み、常に探求を続けてきた男は、今回もビートとマイクでしか語らない。社会の状況と自己の思いの狭間から、また新しい歌が生まれた



KREVAというアーティストが併せ持つ、ラッパーでありトラックメイカーであるという根源的なBボーイイズムと、作品を必ずチャート・アクションに反映するというポップ・ミュージックのクリエイターとしての才能。その二つを高次元で共存させ、それまでのディスコグラフィーから考えても最高傑作だったと言っていい『心臓』からちょうど2年ぶりとなる9月8日——つまり〈クレバの日〉に、KREVAのニュー・アルバム『GO』がリリースされる。



音楽で生きていくことを引き受けた

前作からの2年間の間には、KORG社のシンセサイザー・OASYSを駆使してトラックを作り上げた、つまりサンプリングに依らない〈普通の〉作曲術で構成したミニ・アルバム『OASYS』をリリースし、新たな展開を作品に落とし込んでいたが、それは今回の新作にも繋がっているという。

「今回、自分の作った曲ではサンプリングで作ったトラックはないね。いまの時代はクリアランスを取るのも難しいし、そこに時間や労力をかけてしまうよりは、弾きで作るっていうのはひとつの方法だし、俺としても、いまはそこにおもしろさを感じてるんだ。でも、この2年間でいちばん大きかったのは、やっぱり子供ができたことかな。子供ができて責任感みたいなものが増えたっていうのは、自分のなかでも大きい。音楽で生きていくことを引き受けたというか」。

そういった〈リスナーやオーディエンスを牽引する〉といった感触は、新作からの先行シングルであった“挑め”や“C'mon, Let's go”、そしてアルバム自体にも現れている。その2曲に続く3枚目の先行シングルとして7月には“KILA KILA”がリリースされたが、同曲を制作したのはSEEDAの作品などを手掛けるUS在住のプロデューサー・チーム、MAJOR MUSIC a.k.a. Bastiany&HirOshimaだ。彼らはアルバムでも“パーティはIZUKO?”などを手掛け、大きな活躍を見せている。

「うちのスタジオにSEEDAといっしょに来てくれて。それで一発目にくれたのが“KILA KILA”だったんだよね。その感触も良かったから、〈夏な感じのトラックくれる?〉って訊いたら“蜃気楼”のトラックを送ってくれて。彼らは作品の幅が広いし、良いコード感をバシバシ持ってるんだよね。そして、あの曲は震災の後に作った曲だったんだけど、震災のあと2週間ぐらいは音楽を作らなかったし聴かなかったし、〈必要じゃないな〉ってモードになってた。でも、そんななかでも浮かんできたヴァースを“KILA KILA”のトラックにぶつけたら、霧が晴れたっていうか、そこからまた音楽に戻っていくことができたんだ」。

ただ、その“KILA KILA”もリリックで明確に震災に触れられているわけではない。そこに込められたKREVAなりの思いは、より普遍的なメッセージとして表現されている。

「いつでも歌える歌にしたかったんだ。あまりにも直接的な書き方をすることで、思い出したくないのに思い出してしまう人もいるわけだし。そうじゃなく、普遍的だけど真摯に書けば、そこに届く作品になると思ったんだよね」。

そういった先行曲が多く収録された『GO』は、コンセプチュアルだった『心臓』に比べると、全体よりも一曲一曲に注力された作品となり、前作からのカウンターとも感じられたが、それにはこんな思惑があったという。

「『心臓』や『OASYS』はアルバムという形態においては本当に高いクォリティーのことができたと思うんだけど、ライヴを考えると、〈心臓パック〉や〈OASYSパック〉って形じゃないとやりづらくなってしまって。だから、今回はいままでのライヴのセットリストにも対応して突っ込めるようなヴァラエティーがあって、かつ完成度を高めようっていうのは考えたんだ」。



総合力では俺が一番

そんな『GO』のオープニングを飾るのは、ファスト・ラップが展開される“基準”。自身のスキルを誇示するかのような楽曲からアルバムが始まるというのは非常に興味深い。

「“挑め”とか“基準”みたいな、言いたいことをギュッと詰め込んでいく、力技のラップを見せたいってのがあったんだ。隙間のあるラップの巧さってなかなかわかりづらいから、ブレイクダンスの大技みたいな感じで、こういう詰め込んだラップの方がわかりやすく巧さが伝わるかなと思って、わざとやったんだよね。そこで、ラップに興味がない人にも〈上手いラップがある〉っていうのをわかってほしいなって」。

その意味では、全体的に情報量の多いラップ・スタイルが顕著であり、いわゆる〈歌〉として作られた楽曲は、ライヴ〈意味深3〉で発表された“EGAO”のみに絞られている。

「最初のヴィジョンとしては歌とラップが交互に現れるような作品にしようと思ったんだけど、いまはそういうチャレンジよりも、自分がもっとも自信があることを集中してやるべきだなって。やっぱりラッパーとしての〈総合力〉では絶対に俺が一番だよって思ってるし、そこも引き受けたいって気持ちだったんだ」。

そういった自信に溢れるKREVA像と共に、今作ではある種のネガティヴさやフラストレーションといった負の感情も“基準”や“runnnin' runnnin'”に落とし込まれ、KREVAという個人の持つ感情が明確に表現されているのも印象深い。

「もっと俺を知ってもらうには、ポジティヴな部分だけじゃなく喜怒哀楽の怒りとか、これまでだったらネガティヴをポジティヴに転換していく展開をつけるような曲でも、あえてネガティヴの循環のなかにいるままで終わらせたり。ネガティヴな部分もあっての俺だってことを形にしたかったし、それが今後より大きなステージに上がるためには必要な要素だと思ったんだよね。だから〈みんなと共有したい〉っていう思いよりは、〈俺はこうです〉っていうのを強く提示した作品になったね」。

クロージングの“探求心”にて、〈まだ生まれる探求心/どんなに完璧に近づいたとしても/また/また〉という言葉で幕を下ろす『GO』。KREVAの進む先に見える〈次の完璧〉な音像とはいったいどんなものになるのか、興味は尽きない。



▼『GO』の先行シングル。
左から、2月の“挑め”、5月の“C'mon, Let's go”、7月の『KILA KILA/Tan-Kyu-Shin』(すべてポニーキャニオン)

 

▼『GO』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、安部真央の2011年作『素。』(ポニーキャニオン)、三浦大知のニュー・シングル“TURN OFF THE LIGHT”』(SONIC GROOVE)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年08月31日 19:00

更新: 2011年09月01日 18:51

ソース: bounce 335号 (2011年8月25日発行)

インタヴュー・文/高木“JET”晋一郎