インタビュー

LONG REVIEW――アナログフィッシュ 『ESSENTIAL SOUNDS ON THE WILD SIDE. Analogfish: THE BEST & HIBIYA YAON LIVE.』



荒野を歩む者たちの道標



アナログフィッシュ_J170

2011年5月のミニ・アルバム『失う用意はある? それともほうっておく勇気はあるのかい』と、その4か月後に発表された傑作『荒野 / On the Wild Side』のモードを継承した初のベスト+ライヴ盤『ESSENTIAL SOUNDS ON THE WILD SIDE. Analogfish: THE BEST & HIBIYA YAON LIVE.』の冒頭に置かれた楽曲は“荒野”。メッセージ性を高めることに意識的となった昨年の作品群は結果、プロテスト・ソングの色も帯びるほどに言葉の比重が大きいものだったが、2003年の“のどかないなかのしずかなもぐら”から最新作までを追った本作を聴くと、その変化は突然訪れたものではなかったことがわかる。

個人的な話になるが、筆者のアナログフィッシュの楽曲との出会いは2004年作『Hello Hello Hello』に収録されている“Hello”である。TVのCS放送越しに聴こえてきた〈今 世界と音信不通で上の空/今 世界と交信中でダラララ〉という歌詞と、分厚いコーラスワークで繰り返される〈Hello New world〉というフレーズのインパクトに魅了されて曲名とアーティスト名をメモして以来、新作がリリースされるたびに聴き続けてきた。そして、言ってしまえば〈荒野〉の片鱗はその時点ですでにある。

ライヴ盤のオープニングを飾るのは、『失う用意はある? それともほうっておく勇気はあるのかい』に再録された“TEXAS”。そしてラストを担うのは、リズミックな『荒野 / On the Wild Side』を象徴する下岡作の“PHASE”と、それを佐々木流の言い回しで力強いメロディーに乗せたような“Fine”。彼らはそれぞれの最後で、こう歌っている。

〈New world is coming/The world is changing〉(TEXAS)

〈僕たちのペースで この次のフェーズへ/君だけのフレーズで この次のフェーズへ〉(PHASE)

〈ありったけの願いを込めてドアを開けようぜ〉(Fine)

日々の暮らしのなかで生じる自身と社会との間の軋轢を、詩的に、写実的に、シニカルに、ストレートに、ユーモラスに、シリアスに――表現はその時々で異なるにせよ、彼らはいつだって、同じ目線で物語を締め括るのだ。つまり今回の2枚組は、彼らがこれまで歩んできたワイルド・サイドの道筋であり、それ以降の足取りでもある。

加えて、本作は言葉の面のみならず、サウンド面でもある統一したセレクションをしてあるように思える。最新のオリジナル2作品はブルックリン周辺と共振したサイケ感やトロピカルなムードを織り込みながらも、全体としてはループを多用したビート・オリエンテッドな作風だったが、このDisc-1、Disc-2に収められた全27曲もそうした特徴を踏襲していて、リズムが前面に出たトラックやライミングに近いメロディーラインなどが際立っている。2人のソングライターのうち、作詞/作曲を手掛けたほうが歌うというこのバンドのセオリーを取り払った新曲“Na Na Na”もその延長上にあると言えるだろう。

そして、彼らの最強の武器とも言える極彩色のハーモニー。それはライヴ盤においても完璧さが保たれていて、声そのものが持つ圧倒的なパワーに鳥肌が立つ。

3人にとって、そして彼らの音楽に共感するリスナーにとって、荒野を往くことはすなわち、生きることとほぼ同義であるのではないか。終わらない荒野のなかを前進しながら、アナログフィッシュの放つ言葉、そして音楽性は今後どこへ向かっていくのか――その一つの道標となるのが、このベスト+ライヴ盤である。


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掲載: 2012年03月07日 18:00

更新: 2012年03月07日 18:00

文/土田真弓