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インタビュー

清 竜人

 

どうしちゃったんだよ~、りゅうじん! とにかく、これまでの作品については頭の隅に追いやって、新人がとんでもない娯楽大作を作ったと思って楽しんでみよう!

 

前からこういう作品を作りたかった

2月に行われた〈EMI ROCKS 2012〉で、清竜人が見せた新しいライヴの形に衝撃を受けた方は多かったことだろう。ステージで繰り広げられたのはいわゆるバンド形態ではなく、役者が登場し、清本人も演技を披露しながら歌うミュージカルのスタイル。よりポップになった楽曲と賑やかなステージは同イヴェントでもあきらかに異彩を放っており、これまでの彼のイメージを覆すパフォーマンスだった。

「普段はライヴをすること自体があまり好きじゃないので、あの時は本当に久しぶりのライヴだったんですけど、楽しかったですね。アルバム発表前のタイミングだったのと、(所属レコード)会社のイヴェントということもあって、作品のコンセプトをお披露目するには丁度いいタイミングだと思ったんです」。

そんな彼のモードを反映させたニュー・アルバム『MUSIC』は、先日のライヴで見せたようなセリフのパートが格段に増え、前作以上にコンセプチュアルかつ多幸感に溢れた開放的な作品だ。そして、その破天荒な突き抜け方は音楽シーンに波紋を投げかけることになるだろう。

「こういう作風にしたきっかけは“ゾウの恋”で、15~16歳の頃に作った曲ですね。ただ、これまでのアルバムに入れるのはちょっと違うということで今回入れることになったんです。実は前からこんな作品を作りたい気持ちはあって、順番で言うと、『MUSIC』を3作目(前作)の『PEOPLE』のタイミングで出す予定だったんですけど、ディレクターさんやレコード会社と会議をするなかで、リスナーには急激な変化と取られるだろうからリリースを1枚先に延ばそうという話になっていたんです。だから、『PEOPLE』は2作目と今回の新作との丁度中間のような内容に落とし込んだ感じ。『MUSIC』を3作目から4作目にズラしたことで、いろいろ考えられたし構成を練ることができたんです。それが結果的にとても大きく作用して、アルバムがよりコンセプチュアルに仕上げられた要因になってると思いますね」。

 

化粧をしている感じ?

『MUSIC』が見せる清の変化はそれだけではない。堀江由衣、佐藤聡美、相沢舞ら声優陣に加え、ANANT-GARDE EYESや橋本由香利、高橋諭一などアニメ/アイドル・シーンで活躍している面々を多数アレンジャーとして起用している。そのため生音中心だったサウンドは打ち込みによってカラフルになり、“Fall❤In❤Loveに恋してるっ♪”“バカ❤バカ❤バカ❤”“りゅうじんのエッチ❤~ぼくのばちあたりな妄想劇~”など、アイドルソングやアニソンからの影響を色濃く感じさせる楽曲が増えた。また、こういったサウンドを採り入れたことで、ともすれば箱庭的になりがちなコンセプトの世界観も、フィジカルかつ外向きの開放的なものになっている。

「これまでは生音中心にやってきたんですけど、打ち込みの音楽も普通に好きでよく聴いてたんです。タンポポの“恋しちゃいました!”とか好きでしたね。そういった流れもあって、アイドル・ポップみたいな楽曲も入れたかった。だから意外と思われるかもしれないけど、今回の作品を作ることに関して何の違和感もなかったんです。アレンジャーさんや声優さんたちは単純に自分の好きな方へオファーさせていただきました。〈打ち込み系〉という縛りでリサーチすると、アニメやゲーム界隈の作家に好きな人が多かったんです。高橋諭一さんはハロプロ系の仕事が多いんですけど、癖があってすごい好きなんですよね」。

また、歌詞もタイトルも俗っぽい言葉が選ばれたことで、そのインパクトを増しているのも本作の特徴だろう。そういった言葉が今回のサウンドと組み合わさることで、シンプルな歌モノのスタイルよりも総体としてダイレクトに伝わる感じがするのも興味深い。

「歌詞は、全体を考えて……というよりも曲ごとにって考え方でしたね。最近は楽曲と同時に歌詞を作ることが多くて、すごくスムーズにマッチしたものが出てくるパターンが多いかな。今回は過去に書いてきた時とは毛色の違う言葉もあるんですけど、それも自然に導かれていった感じでしたね。これまではちょっぴり哲学的なことを歌ったりしてたんですけど、今回はメッセージ性をぼやかしたところに意味があるんです。難しかったのはセリフ・パートのストーリーで、無粋なものにはしたくなかった。無駄が多すぎると曲に入り込めなくなってしまうので、言葉だけを飛び出させないことを考えてました。風景で伝える、流れで伝える、周りくどく伝える。それが『MUSIC』にはあるんじゃないかと。これまでがすっぴんの作品だとしたら、今回はもっと化粧をしている感じですね」。

素朴、生々しい、剥き出し、リアル——ロックの世界においてはこうした等身大の表現がもてはやされることは多いが、伝える手段や表現、コミュニケーションの方法は本来もっと多様であるべきだし、場合によってはそれがより直接的にリスナーへ伝わることもあるだろう。ザ・フーがかつて〈四重人格〉で自身のサウンドと詞世界を拡張し、大きなインパクトを与えたように、清竜人にとって『MUSIC』は純粋に音楽のみの表現にこだわらなかったことで自身の枠を壊し、より幅広い層へ届く可能性を持たせたアルバムと言えるのではないか。

「そう言ってもらえるのはありがたいですけどね。でも、ブレちゃうのが恐いのであんまり評価は聞かないようにしているんです。本人としては思われている以上にやりたいことをやっているだけなんで。ジャンルだったりシーンだったりはマネージャーやディレクターに考えてもらって、僕自身はやりたいことをやらせてもらってます。このアルバムも自然に作れたのがいいところなのかなと思ってますし。リリース後にはライヴをやるんですけど、まだ全体の構成は考えられてないのでこの(アルバム)制作が終わったらゆっくり考えたいですね」。

7月にはSHIBUYA-AXで〈ワンマンショー〉が控えている。アルバムの初回限定生産盤に付くDVDに収録されている〈EMI ROCKS 2012〉で披露された世界観が、より進化した形、より大きなスケールで繰り広げられていくことだろう。音楽の枠組を超えて展開される『MUSIC』。本作が周囲に与えるインパクトとその余波が楽しみでならない。

 

▼清竜人の作品を紹介。

左から、2009年作『PHILOSOPHY』、2010年作『WORLD』、2011年作『PEOPLE』(すべてEMI Music Japan)

 

 

▼関連盤を紹介。

左から、堀江由衣の2012年作『秘密』(スターチャイルド)、佐藤聡美が参加した放課後ティータイムによる2011年の映画「けいおん!」エンディング曲“Singing!”(ポニーキャニオン)、相沢舞が参加した2011年のドラマCD『日常の日めくりCD その1』(ランティス)

 

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年05月09日 17:59

更新: 2012年05月09日 17:59

ソース: bounce 343号(2012年4月25日発行)

インタヴュー・文/佐藤 譲