インタビュー

VAMPIRE WEEKEND 『Modern Vampires Of The City』

 

彼らは無理に若作りをしたり、はしゃいだりなんてしない。歳相応の落ち着きや気品を漂わせたこの新作で、気持ち良くあなたをロックしてくれるはずだ。大人になるって何て素敵なことなんだろう……

 

 

僕らの年齢にちょうどいい音楽

「僕がこのアルバムについてたくさん考えている時、よく使っていた言葉があって、イメージとかすべてに及ぶものでもあるんだけど、つまりそれは〈エレガンス〉なんだ」(エズラ・クーニグ、ヴォーカル/ギター:以下同)

ヴァンパイア・ウィークエンドの3年ぶりとなるニュー・アルバム『Modern Vampires Of The City』を実際に聴いたら、エズラが話すこの〈エレガンス〉のニュアンスがスッと腑に落ちるに違いない。本作を貫くキーワードの一つとして、はいはいはいはいはい、と思わず5回くらい頷きたくなる的を射た言葉だ。ただ、〈エレガンス〉という言葉が、ロックにアフロ・ポップ、ヒップホップやダブステップをはじめとするクラブ・ミュージックなどなど、最前線のユース・カルチャーを繋いだこの4人の居場所とすんなり繋がるものではないことも確か。

この3作目は、2010年の前作『Contra』のラストに収録された“I Think Ur A Contra”のテンポやムードとも繋がる“Obvious Bicycle”で幕を開ける。〈Morning〉という単語で始まるこの曲は、音要素と言葉をギュウギュウに詰め込んだこれまでのスタイルとは異なり、サウンドはあくまでドラム、ベース、そしてピアノで構築されたシンプルなもの。目覚めを誘うエズラの歌には、どこかゴスペル風味すら宿っている。アメリカ、しかも彼らの結成地であるNYをモチーフにしてアルバムを作ったというコメント通り、ほかにも曲によってはロカビリーやカントリー、フォークまで顔を出すが、どれもルーツ・ミュージックの焼き直しではない。むしろ、価値観の転換を促すような出来事が次々と起こる、この21世紀を生きる現代人ならではの目で再構築された、〈エレガンス〉を感じさせる音作りだ。

「年齢を重ねると、時にはある種のものを失ってしまう。例えば幾分かのエネルギーだったりね。でもそれは、願わくば〈エレガンス〉と交換できるものなんだよ。セルジュ・ゲンスブールやウディ・アレンみたいな人は、年齢を重ねるほどクールになっていった。ウディ・アレンの20代っていうのは、彼が真のアーティストになる前段階だからね。だから僕らは、そういう方法論を音楽に持ち込みたいと考えたんだ。もちろん、それは音楽においてはいまだに難しいとも思っている。だけど、常に僕らの作るレコードが僕らの年齢にちょうどいいと思えるものである限り、僕らはきっと……自分たちのことをそれほど恥ずかしいと感じずにいられると思う、たぶんね」。

エズラはこんな例え話もする──「ロックと同じようにユース・カルチャーとしてスタートしたヒップホップ。しかしいまではカニエ・ウェストやジェイ・Zがユース・カルチャーとの繋がりを失うことなく、40代の大人ならではの音を作れている」と。そんな分析も胸に秘めて挑んだ新作は、あと数年で30歳を迎えようとする(エズラはこの4月に29歳になった)なかで、どうロックやポップ・ミュージックがクールなまま成長の道を歩めるか、という命題にも取り組んだ一枚になった。

 

直接的に感情を伝えようと思った

その試みにあたって、ヴァンパイア・ウィークエンドは〈シンプルさのなかに存在する美〉も手にしたようだ。もちろん、歌詞にはこれまで通り数多くの固有名詞や地名、そして重層的なイメージが使われている。サウンド面でも、さまざまなジャンルを繋いできた彼らの真骨頂とも言える、多くの参照点が交錯したプロダクションで楽しませてくれる。謎解きのように一つ一つを紐解く喜びも、間違いなく味わえるだろう。それを大前提としつつ、前述した“Obvious Bicycle”など構築面でシンプルさを感じさせるものもあれば、“Finger Back”や“Ya Hey”には、一切歌わずに語りのみの〈ヴォーカル・パート〉を織り込んだり……。さらにエズラは、「歌詞でもこれまでとは違い、感情を描こうと思った」と振り返る。

「思うに、怖れや愛みたいなものを描いていると思う。これまでの僕らが微細な形で伝えようとしていたことや、リファレンスなどを使ったりしてエモーションを曖昧にしようとしていたことが、まっすぐ描かれているんだ。うん、歌詞の面では〈フィーリング〉というものに関してとてもダイレクトなステイトメントになっていると思うな。もしかしたらこれまで僕は、フィーリングについて語りたくなかったのかもしれない。僕はみんなにフィーリングを感じてほしかったから。だけどいまは、ある種の直接性のほうに関心があるんだ」。

年齢を重ねて成長するという前進を遂げた一方で、ダイレクトでシンプルな表現といったより原始的な方向にも大きく舵を切ったヴァンパイア・ウィークエンド。論理的には並び立たないようなこの2つの視点も、常に何かと何かを繋いできた彼らだからこそ、こうやって自然に成立できたのかもしれない。

「それと思うんだけど、このアルバムには確実に教会っぽさがある。たくさんの宗教的なフィーリングというか。“Worship You”って曲があったりね。アルバム全体を聴いたら、教会風のオルガンの音とか、コーラス、大きな声、語りなんかがあるよ。で、歌詞はそんな音楽に導かれた部分も大きいと思う。音楽が宗教的なフィーリングみたいなものを最初から持っていたから」。

エズラはこのようなヒントも口にした。ここから先は、種明かしをするより実際に聴いて、〈なるほど、こういうことか〉と体感してみてほしい。常に現在と未来を見ていたヴァンパイア・ウィークエンドが、いま特定の宗教ではなく〈ただ信じる気持ち〉を歌うこと。それは、彼らがダイレクトでシンプルな表現に歩みを進めたことの、もう一つの証になっている。

 

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掲載: 2013年05月08日 18:01

更新: 2013年05月08日 18:01

ソース: bounce 354号(2013年4月25日発行)

インタヴュー・文/妹沢奈美  写真/アレックス・ジョン・ベック