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インタビュー

大工哲弘

スケッチ・オブ・ヤイマ──青い八重山と「たのーる」の真髄

「アフリカから来た黒人がもたらしたブルース。その音楽が生まれた歴史について音楽ファンはよく知っていると思うけど、〈ブルー〉と付けたのは、八重山にもそういった歴史があったってことなんですよね。沖縄音楽は、イヤサッサーって踊ってハッピーになれるものというイメージが強い。でも〈ブルー〉のなかからその音楽の多くが生み出されたというコアな部分は、沖縄音楽ファンですらあまり知らないと思う。青い空に青い海、肥沃な土地があったがゆえに、そこに暮らす人間たちは苦しめられてきた皮肉な歴史が八重山にはある。それはブルースが生まれた背景と似ているものがありますね。そういう過酷な歴史のうえで〈YAIMA〉の音楽が生まれたという事実を伝えたい、という気持ちが今回、久保田麻琴と僕にあったんです」

大工哲弘が久保田麻琴のプロデュースで制作した『BLUE YAIMA』が放つ美しくも哀しい色彩に胸が灼かれまくりだ。八重山の古謡、山之口獏の詩に高田渡が曲を付けた《生活の柄》や《鮪に鰯》、そしてフォーククルセダーズの《悲しくてやりきれない》などを、哀愁・郷愁に満ち溢れた、八重山の方言でいうところの〈たのーる〉のこもった歌声で表現するマエストロだが、どれも混迷のこの時代に相応しい歌に思える点が素晴らしい。いや、そう思わせないと意味がないといった強い主張が作品の端々から聴こえてくるのだ。

「まさにそのとおり。1771年、八重山地方で明和の大津波があった。人頭税制が敷かれていた頃で、島民の生活は二重苦、三重苦の状態だったんだけど、それでもなおどんどん歌が生み出されていた当時のパワーは何だろう?って。そういう曲を採り上げて、ふたたび呼吸させるのがテーマだった。パンドラの箱を開けたら宮古の音楽があって、改めて沖縄の音楽を発見した久保田にとってこれは〈スケッチ・オブ・ヤイマ〉になったんじゃないかな。レコーディング中の彼は、大丈夫か!? って思うぐらいのトランス状態でしたよ」

ほろ苦くもあっさりとした味を醸す大工の歌声がいい。そんな彼の歌心を丁寧に汲み取りながら、カッコよくて味わい深いサウンドをクリエイトしみせた久保田のプロダクションもいい。わけても千昌夫の《星影のワルツ》が最高の仕上がりだ。

「沖縄には〈別れ〉という言葉はないし、最初は躊躇した。〈遠くで祈ろう 幸せを〉なんて寂しいしね(笑)。でも大工が愛だの好きだの歌うのも面白いと思って歌ったら、ウチの嫁さんはこれいちばんいい! って言うんだよ」と彼は笑うが、魅惑的なブルーなフィーリングを浮かべたこの曲はマジで泣ける。時代を超えて愛されるだろう名作の誕生だ。

LIVE  INFORMATION
『琉球フェスティバル2013東京』

7/14(日)16:00開演
出演:大工哲弘/喜納昌吉&チャンプルーズ/パーシャクラブ夏川りみ/よなは徹/池田卓/きいやま商店/サンサナー
司会:ガレッジセール

http://www.daiku-tetsuhiro.com/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年07月03日 11:54

ソース: intoxicate vol.104(2013年6月20日発行号)

interview&text:桑原シロー