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インタビュー

森田修平(映画SHORT PEACE 『九十九』監督)/3

こうして話を聞いていくと、『SHORT PEACE』全体のテーマである“日本”が、文化論をも孕んだ射程の広がりをもつものと予感されるが、そろそろ森田作品『九十九』に話題を移そう。冒頭、「付喪神(つくもがみ)」の説明が墨書風の文字で画面に現れる。要するに、生命のないはずの「器物」なのに、それが古くなると「精霊」が宿り、妖怪変化の類となって、人間をたぶらかす……それが付喪(九十九)神である。雷雨の夜の山中を迷う一人の男が、一晩を明かそうと小さな祠に入るが、思いがけぬことが次々と起こる。ふと周囲を見渡せば、暗くて狭い祠だったはずが、明るくて広い日本間に変貌、やがて傘のお化けなどが続々と姿を現すのだが……。

「今回、スタッフの人数はすごく少ないんです。少人数のほうが、いろいろヘンなことができるし、臨機応変に作れます。もともとそういうコンセプトで始めているし、若手なので、一番に作っちゃおう、ということで、ガツガツガツと仕上げました(笑)。実は以前の企画で、モノにまつわる話を考えていたんです。現代ファンタジーという感じなんですが、モノって、ふと無くなって、探しても探しても見つからないのに、またなぜか出てきたりするじゃないですか。そのあいだ、モノは異世界へ旅をしていた、という話。世界観やデザインを、立体的な作品にしたかったので、造形作家の岸啓介さんに協力をお願いしようと考えていた。今回の企画は、その延長線上で、日本昔話を新しくしたい、今の子どもたちが見られるようにしたい、というのがありました。ああいうので、モノにまつわる話をしたいと考えました」

『武器よさらば』
原作:大友克洋
脚本・監督:カトキハジメ
キャラクターデザイン:田中達之

話に出た未実現の企画もそうだが、モノに生命が宿り、動き始める……とのアニミズム的な設定は、アニメーションの原初的な欲望ともいうべきもので、森田の才能があくまでも原点に忠実であることを示している。『九十九』では、人間にさんざん使われたあげく捨てられた傘や着物がある種の怨霊となり、旅人をたぶらかそうとするが、旅人がそれらを丹念に修繕、供養に成功する。西洋的な思考だと、モノは人間の道具や所有物にすぎず、利用価値が無くなれば、単なるゴミとして捨てられる。だが、日本の文化の基底として、森羅万象すべてに神が宿るとの思考があり、たとえば、可愛がってきたペットや愛用していた人形を供養する、といった伝統が今も根強く残存する。そうした意味で、やはり日本は独特のアニメーションを生み出す土壌にあるのかもしれない……との考えが、森田作品から触発されてもくる。加えて『九十九』で感動的なのは、傘や着物を修繕する、旅人の手仕事ぶりというか、職人的な仕種である。森田にとって、CGも職人的な手作業の延長線上にあるということかもしれない。

「CGは、人の手が入ってない感じがしてイヤだ、と言われることがあります。自分もそういうCG、そういう作品がイヤなんです。でも、利点もいっぱいありますよ。たとえば、少人数で物が作れる。『KAKURENBO』(2005年)はそのおかげで作れた。1人であの作画をやっていると、5年くらいかかるけど、2人だけで1年で作った。つまり、個人で作品を作れるようになる。ただ、悪い点もそこにあって、CGがあればモノを作れる、という感覚の人が多いと思うんです。そうじゃなくて、使う側がCGだって鉛筆のような道具として使いこなさなくてはいけないんです。自分のイメージに近づけるために。たとえば、今回の作品は立体感を出したいな、と思っていたんですが、そうすると江戸時代のものって、模様が多いじゃないですか。それを表現するために、千代紙をいっぱい買ってきてCGの上から貼っているんです。そのときに和紙を貼ろうという発想があるかないかですね。CGをやる人って、そういうのがなくて、テクスチャーとか、言ってしまう(笑)。でも僕らは、これで画面が豪華になるぞ、とがんばるわけです(笑)」

映画『SHORT PEACE』
アニメーション制作:サンライズ
配給:松竹(2013年 日本)
◎7/20(土)全国ロードショー!

http://shortpeace-movie.com

© SHORT PEACE COMMITTEE
© KATSUHIRO OTOMO/MASH・ROOM/SHORT PEACE COMMITTEE

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年07月18日 12:08

ソース: intoxicate vol.104(2013年6月20日発行号)

interview&text : 北小路隆志