フレッド・ハーシュ・トリオ、再びのヴィレッジ・ヴァンガード
現代最高峰のジャズ・ピアノの詩人フレッド・ハーシュが、不動のトリオで、2016年3月22日~27日ヴィレッジ・ヴァンガードに出演。その最終日27日の演奏が、CD化されて登場となります。
レコーディングは、後半25日から3日間行われ、初日は緊張感もあったものの、2日目からギアを数段アップ。特に26日のセカンド・セットは満場の観客を美しい音で包み込み、時に圧倒するような演奏をみせましたが、さらなるドラマはこの最終日に生まれました。
ハーシュ自身ステージ前、“今日も、きっといい演奏になる…”と静かに語り、臨んだセットは、正に一音目から“ミラクル”。その瞬間に関して、“「A Cockeyed Optimist」の最初の一節でトリオはZone(日本語にすると完全集中、無我の境地)に入り、セット全体その境地にステイした”と同じく自身の言葉でライナーに語っていますが、その美しさが観客の心を満たしたのは言うまでもありません。そして、本CDの最初に記録された音が、まぎれもないこの音であるのも、言うまでもありません。
そんな音は、場の空気を一瞬で変え、ミュージシャン/オーディエンスの気持ちが一体化した特別な流れをつくりましたが、相互作用がポジティヴに働き続けた演奏は、インティメイトな集中した演奏と、いい意味のリラックスした空気が合いまった展開を見せて行きます。
収録された10曲は、ファースト・セットを中心にしたもので、どの曲も捨て曲なしの演奏ですが、中でもM3はシンプルなブルージー・ナンバーの中で、3人がアイコンタクトをしながら、一本の見えない糸ででも繋がっているかのように、絶妙にテンポアップして即興を楽しむジャズの魅力に満ちた演奏。Duo作も制作した経験があるブノア・デルベックに捧げた演奏は、一転緊迫したアーティステックな演奏。一方、昨年の来日ライヴでもたびたび披露したビートルズ・ナンバー「For No One」の美しさは絶品!美しいメロディの中にメランコリックな感覚がにじむ原曲の世界とまるで対話するように一音一音を紡いでいくハーシュのピアノには、筆舌に尽くしがたいものがあります。
もちろんライヴでは必ず織り込むというモンクの楽曲も演奏。今回は軽妙なアレンジを施した「We See」を、3人のキメもバッチリ設定しつつ、スウィンギーに演奏!伝統的な演奏スタイルに真正面から向かい合いながら、新鮮さを見せるのも、正にこのトリオならでは。そして、ラストは、これも究極といえましょう。フレッド・ハーシュの至高の名バラード曲「Valentine」は美の極致。ハーシュのファンはもちろんのこと、ジャズファンのみならず、多くの人の心を揺るがす音がここにあります。
ジョン・エベール、エリック・マクファーソンとのトリオは、今7年。ヴィレッジ・ヴァンガードでは2作目のライヴ録音。重篤な病を経ての奇跡の復活作から、一作ごとに自由度を獲得していく様子が記録されていますが、フレッド・ハーシュ曰く、“ここには、スタジオではほとんど不可能に近いライヴならではの音がある”とのこと。多くのミュージシャンもリスペクトしてやまず、この一週間も数々のミュージシャンがヴァンガードに観客としてヴァンガードに来店。多くの方に聴いていただきたい一作です。
Fred HerschTrio / Sunday Night at the Vanguard
1. A Cockeyed Optimist (Rodgers & Hammerstein)
2. Serpentine (Hersch)
3. The Optimum Thing (Hersch)
4. Calligram (for Benoit Delbecq) (Hersch)
5. Blackwing Palomino (Hersch)
6. For No One (Lennon/McCartney)
7. Everybody’s Song But My Own (Wheeler)
8. The Peacocks (Rowles)
9. We See (Monk)
10. Solo Encore: Valentine (Hersch)
メンバー:Fred Hersch(piano), John Hebert(bass), Eric McPherson(drums)
タグ : ジャズ・ピアノ
掲載: 2016年06月13日 18:00