「MCバトル」の知られざる歴史……ラッパー・KEN THE 390が豪華ゲスト達と語るMCバトルの過去と未来
ヒップホップカルチャーのひとつである「MCバトル」。10年ほど前までは若者を中心としたアンダーグラウンドな文化だったが、2012年頃から知名度が上昇し、「フリースタイルダンジョン」によって空前のブームに。近年では優勝賞金が2,000万円の超大型イベントも開催されるまでに成長した。
しかしMCバトルが現在の形になるまでには、長い進化の過程があったという。その進化の内実を知るために、ラッパー・KEN THE 390が豪華ゲストを迎えてMCバトルの歴史を振り返る対談が「音楽ナタリー」で企画され、このたび「ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE」として書籍化。現在も第一線で活躍するトッププレイヤー達の証言によってMCバトルの歴史を紐解き、日本のヒップホップの奥深い世界を知ることができる一冊だ。
●KEN THE 390が対談方式でMCバトルの実像を追う
本書の対談でホストを務めるラッパー・KEN THE 390は、まだ黎明期といえる2002年からMCバトルなどに参戦。実績を重ね、鋭いワードチョイスとラップ力で名を上げていった。ラッパーとして国内外でのライブを開催するほか、「フリースタイルダンジョン」の審査員も担当。さらにテレビ出演や楽曲提供、ボーイズグループのプロデュースなど多方面で活躍している。
MCバトルは現在までに大小様々な大会、イベントが開催されている。その中でルールなどは試行錯誤が繰り返され、ブラッシュアップされ続けてきたという。MCバトルの世界は主催者でありながら出場者であることも多く、“運営”と“プレイヤー”が非常に近い関係にある。つまり“プレイヤーがプレイヤーにインタビューする”ことは、MCバトルの歴史を辿るうえで最もリアルな証言を引き出せるのだ。
●MCバトルブーム以前のKREVAの功績
最初期のMCバトルを語る上で外せないのは、自らのスタイルを明確に打ち出したKREVAだろう。KREVAは1999年から開催された日本最大規模の大会・B-BOY PARKで初年度から優勝。前人未到の三連覇を達成した。KREVAが当時の無秩序だったMCバトルに持ち込んだのは“エンタテインメント性”だ。
やっぱりフリースタイルやバトルといえどエンタテインメントだし。プロレスとかにマインドは近いのかな。
「ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE」より
オーディエンスを強く意識したKREVAのステージングには、大きく影響を受けたものがあるという。まずはB-BOYのダンスバトルで、アティチュードや煽り方、キメのポーズなどが取り入れられている。さらにバイブスやマイク捌きなどを参考にしたのがレゲエのサウンドクラッシュ。異ジャンルの手法や方法論を取り入れ、フリースタイルやバトルを進化させたKREVA。その後アーティストとしてもスターの座に駆け上がったKREVAは、MCバトルを“名前を売る場所”に留まらせず、“スターを輩出する場所”という価値も与えた存在だ。
●R-指定の強さを育てた“梅田サイファー”
ヒップホップユニット・Creepy Nutsとして音楽シーンのトップランナーとなったR-指定だが、スターダムまでの道程に欠かせないのがMCバトルだ。R-指定は全国トーナメントのUltimate MC Batle(UMB)で三連覇。誰もが認めるMCバトルの実力を持つが、ヒップホップの知識や即興力、リリックなどの基礎を磨いていった場所が梅田サイファーだった。
梅田サイファーは、サイファー自体が珍しい時代だった当時、“地元”に根付かずとにかくラップがしたい人だけが集まる異質なサイファーだったという。R-指定は梅田への参加によって、
俺も梅田サイファーで「ガワよりラップが大事なんやな」と気付かされたし、梅田に参加していなかったら“マッチョなラップ”をしてたかもしれない。
「ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE」より
と、ラップと向き合う姿勢に大きな変化があったと語る。ひたすらラップを分析、研究、実践をするという特殊な環境がR-指定のMCバトルでの強さを培い、また、今日の活躍の礎も築いたと言えるだろう。
本書は、日本ヒップホップ界のレジェンドや現役トッププレイヤー達の生の声が詰まった貴重な一冊だ。それぞれから見たMCバトルの歴史やヒップホップのルーツ、スタイルなどを紐解くことで、個性的で奥深いヒップホップの世界をいっそう楽しめるようになるだろう。