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インタビュー

INTERVIEW FEATURE 2 アヒト・イナザワ(ドラムス) 中尾憲太郎27才(ベース) 田渕ひさ子(ギター)


 平成の切り狂言師、向井秀徳を支える田渕ひさ子、中尾憲太郎27才、アヒト・イナザワ。「この感じは……いったいなんちゅうんですかねえ?」――向井語るところの、いわゆる<なんちゅうんですかねえ?>の部分を誰よりも俊敏かつ適格に理解し、<音>として具現化する、腕利きのギャング・オブ・スリー。

祭囃子を大胆にも導入(?)したオープニング・ナンバー“NUM-HEAVYMETALLIC”をはじめ、いままでにないレベルで、トラディショナルな<和>のイメージが作品全体を覆った感もあるナンバーガールの新作『NUM-HEAVYMETALLIC』。止まることなく暴走の一途をたどり続ける向井の妄想を、3人は一体どのように受け止めているのだろう?

「1年近く、ずっとライヴをやってきて。そのなかで、たとえば、ダブっぽい感じのこととかをわりと実験的にやっていくようにはなっていて。だから向井くんの意識が音に関してはそっちの方向に向かってるんじゃないかな?とはなんとなく思ってたんですけど……なんでここまで<和>な感覚に目覚めてしまったのかっていうのは、正直、わからないですねえ」(アヒト)。

「流れはあったような気はするんですけど……たとえば、向井くんがいきなり三味線買ったりだとか(笑)」(田渕)。


「あっ、そんなのあったね。ツアーで青森に行ったときか。沖縄でも買ってたし」(アヒト)。

「朝8時に起きて三味線弾いてるとか言ってたよね。でも、それが直接的な理由なのかって言われると、それはちょっと、わからない(苦笑)」(田渕)。

とにかく、あらゆる意味で突き抜けきったイメージが感じられる今作。ハードコア民謡とでも呼ぶべきオープニング・ナンバーに至っては、もはや竜童組スレスレ(中尾いわく「一世風靡セピアっぽいって意見もあった」とのこと)。こんな類いの楽曲をなんら違和感なく提示できるようになったのも、ひとえに彼ら自身の成長あってこそ。

「曲の原形が出来た段階で、そのままやったら駄作になっちゃうようなタイプの曲がウチらの場合は結構多くて。でも、それが駄作にならず、最終的にはしっかりと聴けるものになっているっていうところに自分たちの成長を感じたりはしますね」(アヒト)。

そして、なにより特筆すべきは、元来の強靱さに加え、時にしなやかささえ感じさせるまでになった中尾&アヒト・コンビによるリズム&ビートの妙。もちろん、そこに向井の指向性が少なからず反映されているとしても、だ。

「うん。今回のは全体的にリズムが強いっていう印象は私も感じますね」(田渕)。


「実際、リズムに関しては、相当厳しかったと思います。それが問題でドラムを録り直したりもしたし」(アヒト)。

「まあ、向井くんは、以前からリズムに関しては、かなりのこだわりがあるみたいなんですけど。でも、ここまでいろいろなことができるようになったっていうのも結局は去年1年間続けてきたライヴの賜物なんじゃないですかね」(中尾)。

先行シングル“NUM-AMI-DABUTZ”で飛び出した、ディスコでグルーヴィーなリズム・ラインには正味の話、相当ブッ飛ばされたものだけれど。

「でも、ああいうことってスタジオではよくやるんですよ。もうホント普通に、遊びっぽい感じで。今回はそういうセッション的な部分がいつも以上に出てるのかもね」(中尾)。

「単純に、そういうセッション的なものや実験的なものが、レコーディングの現場でも自然に活かせるようになったっていう。だから、『SAPPUKEI』を出したときよりも、確実にやれることは多くなってますよね」(アヒト)。

『SAPPUKEI』な風景の、そのまた先に待ち構えていたのは、終わることなく繰り広げられる騒乱の宴。細胞のひとつひとつを叩き起こされるかのような、なんともいえぬ高揚感たるや! これぞ、まさしく向井が最近、頻繁に口にしている<ええじゃないか>の感覚なのか?

「<ええじゃないか>って最初はピンとこなかったんですけど、ちょうどいい時期に深夜のTVで<ジャズ大名>って映画を観て。その映画のラストに<ええじゃないか>って民衆が延々と踊りまくるシーンがあるんです。いままでの物語はいったいなんだったんだろう?っていうぐらい、とにかく延々と(笑)。私はそれを偶然観て<はっはぁー、なるほど、この感じなんだな>って」(田渕)。

僕のなかでも<ええじゃないか>っていうのは、普通の民衆が、トランス状態でワケもわからずにワーッ!て延々と騒いでいるようなイメージがありますね」(アヒト)。

「一揆や暴動じゃないんだよね。怒りとかそういうのは、もうすべて通り越しちゃってる。もっと脳天気な感じ」(中尾)。

踊る阿呆に演る阿呆。同じ阿呆なら踊らにゃ損。DNAレベルで民衆の騒乱を促す、きわめて害悪な音楽。ナンバーガールの『NUM-HEAVYMETALLIC』は、世が世なら、完全に打ち首モノの傑作だ。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年04月25日 12:00

更新: 2003年03月07日 19:16

ソース: 『bounce』 231号(2002/4/25)

文/望月哲

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