インタビュー

キリンジ(2)

BPM≠テンポへの配慮

 「今回、リズムでおもしろいのは“ムラサキ☆サンセット”“太陽とヴィーナス”とか……あと“切り花”もスロウなりにいい感じのビートになったなと思うんだけどね。今回は、リズム・パターンよりBPMをすごい気にしたんですよ。顕著なのは“Music!!!!!!!”だと思うんですけど、あれ遅いでしょ?(微笑)。パッと聴きはもうちょっと早いほうがいいかな?とも思うんだけど、ずっと演奏する、ずっと聴く、と考えると、あのテンポがいちばん集中できると思うんです」。

“牡牛座ラプソディ”をさらにガンボ味に煮詰めたようなセカンドラインが胸躍る“ムラサキ☆サンセット”での幕開けに、すわ、リズム・アルバム!?と思わされるものの、アルバム全体としては軽くグルーヴするエイトビート印象強し。つまり、リズム的なヴァリエーションはこれまでよりも控えめ。しかしエイト、ナメるべからず。このBPM≠テンポ感への配慮がアルバムの味わいをいかようなものにしているか!?は聴いた人判断で是非、としか言いようのないのが紙メディアの限界にて悪しからず。

ソングライターとしてのふたりの違い

 「個人的な理想はニック・デカロ、適度に洗練されてて、適度にいなたくて」と言う高樹(ソングライターのお手本として、という限りにあらず)、前『3』期あたりから自身のロック魂を遠慮なくキリンジ上で燃え上がらせてきた泰行、このふたりの楽曲には明確なテイストの違いがあるだけれども(それこそ、ヒロト&マーシーばりに!)、結果的にどれもが紛うことなきキリンジ・ソングとして提示されているのはひとえに、蒼い色気と熱さとメロウネスが渾然となった音響的にも素晴らしい泰行のヴォーカルやら、高樹の醸し出すムードやら、もはや三位一体と言って差し支えのないプロデューサー、冨田恵一の素晴らしいジャッジメントとトリートメントやら――こりゃもう、必然。そしてこれからも、あたりまえに、普通にいいポップス(でもとびきり気の利いたやつ)を作っていってくれるんだろう。というワケで、バトンタッチする前に、高樹の目に映るソングライター・泰行をば。

「〈ロック幻想〉がある人にコンプレックスをもってるふうなんですね。僕はそういうのぜんぜんないから、コンプレックス感じなくていいのに、とも思うんですけど、逆に考えてみると、それがあるからいいのかもしれないし。ただ、〈ロック幻想〉の人たちより、泰行はぜんぜん才能あると思っているんで」。

その口調は冷静な批評家のそれであったが、目の奥には柔和な光がきらり☆(ヤマウチ)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年05月30日 16:00

更新: 2003年03月06日 19:33

ソース: 『bounce』 227号(2001/11/25)

文/フミ・ヤマウチ、望月 哲