フレーミング・リップスのカラフルな世界を分析!
ロックンロール・バンドとしてのリップス
その濃厚なサイケデリアゆえにアート志向なバンドと捉えられがちな彼らだが、根っからのアメリカン(オクラホマ出身です)が鳴らすサウンドには、ストレートなアメリカン・ロックがしっかりと根ざしている。ボブ・ディランはウェインにとってのヒーローのひとりで、そのソングライティング・センスへの影響は大。加えて、ニール・ヤングの“After The Gold Rush”のカヴァーも演っている彼ら。これまたヴォーカル&雰囲気が完コピに近い出来で微笑ましい。ウェインはかつて「クラシック・ロックとはいつも繋がってる」と語っていたが、レッド・ツェッペリンの“Thank You”をよりワイルドにカヴァーしたりもしていた。そういえば“Summertime Blues”のカヴァーも。無邪気な人たち!
サイケ色豊かなサウンドメイキング
初期フレーミング・リップスはギター・ノイズ渦巻くサイケデリック・バンドだった。同時代のバンドとしてバットホール・サーファーズやソニック・ユース(彼らの“Death Valley 69”をカヴァーしている)なんかにシンパシーを抱いていた彼らは、そういったバンドと共にシーンの一翼を担っていった。しかし、ギタリスト脱退後にリリースした『Soft Bulltein』をきっかけに、そのサイケデリック・センスはよりアヴァンギャルドなスタジオワークへと移行。フィル・スペクターばりの音圧と、ブライアン・ウィルソンの無邪気な実験性を併せ持つように。ジム・オルークも狂喜させたその精緻なサウンドメイキングは新作でもますます冴え渡り、よりピクチャレスクにリスナーの脳を直撃する。
バンドを取り巻くフレンドシップ
94年の〈ロラパルーザ〉にボアダムスと共に出演したフレーミング・リップス。それが縁で両バンドに交流ができ、Yoshimi P-weが登場する本作が生まれた。両者ともその実験性とトリッキーなポップさは共通しているところがあるのかも。リップスの新作では日本語歌詞でタイトル曲が歌われるが(日本盤のみ収録)、ヨシミちゃんに向けてか、関西弁なのが微笑ましい。また、一時期フレーミング・リップスのメンバーだったジョナサン・ドナヒューのバンド、マーキュリー・レヴとの関係も重要。ウェインがジョナサンに与えた影響も大きいが、逆にマーキュリー・レヴのメンバーであるデイヴ・フリッドマンは、フレーミング・リップスのサウンドメイキングに深く関わっている。これからも仲良くね。
ウェイン・コインの素晴らしき歌声
フレーミング・リップスのサウンドを構成する重要なエッセンスとして、もしかしたらいちばん大きな役割を担っているかもしれないのがウェイン・コインの歌声だろう。ちょっとおぼつかなげに切々と歌いあげるそのハイトーンの歌声は、イノセントな輝きに満ちている。それは元13thフロア・エレヴェーターズのロッキー・エリクソンが放つアシッド味たっぷりの歌声や、ビートルズをこよなく愛する、孤高&ラヴリーなシンガー・ソングライター、ダニエル・ジョンストンの歌声を連想させる、〈アウトサイダー・ヴォイス〉とでも言えそうなもの。生まれたての赤ん坊が「オギャー!」と世界に向けて喜びと抗議の叫びをあげるような激しさと美しさがそこにあるのだ。
ロッキー・エリクソン『Never Say Goodbye』(Emperor Jones)
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