インタビュー

Jennifer Lopez(3)

私の意見が反映されたアルバム

 ニュー・アルバムの大きなインスピレーションのひとつになったのは……もちろんベン・アフレックの存在だってことで、勝手にしやがれ的な心境にもなるが、意外にもベニーとジェニーが仲を深めたきっかけは音楽にあったという。

「お互い知り合い始めた時期、ベンには凄く驚かされたの。彼はジャ・ルールとかネリーとかスヌープ・ドッグとか……ヒップホップが大好きで、歌詞も全部覚えててよく歌い出すから〈それは何の曲?〉って訊くと〈昔のスヌープの曲さ〉って。びっくりさせられたわ。それ以外にもベンはいろんな音楽が好きなのよ。だから私も初めて聴く音楽が多かったわ。昔のブルースとかを〈これ聴いてみなよ!〉ってよく聴かせてくれるの。彼の育った地域ではレゲエも流行っていたみたいで、レゲエにも詳しいのよ」。

 何を訊いても結局はノロケかい、と少し呆れつつも、彼から得たものが新作のゆったりしたヴァイブに有形無形の影響を及ぼしているのだ、と解釈しておこう。そうじゃないと話が進まない。で、そのベンに捧げられた“Dear Ben”については正式発表前だったからか話を逸らしてやがんのね。

 それはともかく、先行シングル“Jenny From The Block”でブギー・ダウン・プロダクション“South Bronx”(かつてパフィがトータルの“No One Else”で使ってた……くすぐりが上手いのね)をネタ使いして地元をレペゼンしているのも印象的だったが、テディ・ペンダーグラスの“Set Me Free”を滑らかに用いた“Still”、エムトゥーメイの“Juicy Fruit”が美しいアーバン・フィーリングを紡ぎ出す“Loving You”、さらにはスクーリーDの“P.S.K. What Does It Mean?”の破裂ドラムスを印象的に用いた“I'm Glad”……とアルバムも冒頭から痛快なネタ曲の嵐。さらに、アグレッシヴなビートが目立ったこれまでの作品とは異なり、スムースな耳触りの曲ばかり。勝手知ったるコーリー・ルーニーのプロデュース・ワークも引きどころを弁えた感じで完璧だ。いままで以上にリラックスしたヴォーカルが聴けるのも、キンキンに張った歌声がやかましくなくもなかった前作の反省からだろうか? いずれにせよ、結果としてこれまでの最高傑作になったと遠慮なく言っておこう。

「いままではずっと〈ヒットを作れ〉って言われ続けてきたの。だからヒットする曲は聴けばわかるようになったわ。でも今回はヒット曲にとらわれないで、もっと私の意見が反映された私のアルバムになったのよ」。

 かつて、みずから演じたセレーナに触発されてシンガーへの道をめざしたブロンクスのジェニーは、次々と世界を揺るがしながら、とうとうみずからの素の部分を表明する機会を手にした。そういうことだ。心の安定が素晴らしい音楽に繋がるのであれば、どんどん幸せになってもらいたい。……というかオチがつかないので、最後はジェニーの幸せコメントでシメておこう。

「結婚の話? してるわよ」。

 そうでしょうよ!

『This Is Me...Then』に参加したアーティストの作品。

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掲載: 2002年12月09日 12:00

更新: 2003年01月22日 13:30

ソース: 『bounce』 238号(2002/11/25)

文/轟ひろみ