Metallica(2)
最新型ハードコア・サウンド
で、ここからが肝心なのだが、そのメタリカの純粋なスタジオ・アルバムとしては実に約6年ぶりとなる新作が6月11日にリリースされる。題して『St. Anger』。プロデューサーは、91年に発表され、今日までに全世界で2,000万枚を超えるセールスを記録している『Metallica』(通称〈ブラック・アルバム〉)以来タッグが続いているボブ・ロックである。そしてひとつ報告をしておくと、今作にいたる過程のなかで、彼らはデビュー以来2度目のメンバー・チェンジを経ている。86年に事故死した初代ベーシスト、クリフ・バートンの後任として加入以来ずっと貢献を続けてきたジェイソン・ニューステッドが脱退し、その後任にロバート・トゥルジロが迎えられているのだ。カーク・ハメット(ギター)は、彼についてこんなふうに語っている。
「今回、ロバートの存在に注目したのは、彼のオジー・オズボーン・バンドでの実績があったからだけど、実はずっと前から彼が素晴らしいプレイヤーだってことは知ってたんだ。94年のツアーのとき、彼はスーサイダル・テンデンシーズにいて、俺たちのオープニングを務めてくれたことがあったからね。あのとき最初に気付いたのが、〈スーサイダルにはすごいベーシストがいるんだな〉ってことだった。で、最初のリハーサルに入ったときから、実際彼はすごかったよ。なんか昔のクリフを思わせるところがあるんだよね」。
また、ラーズ・ウルリッヒ(ドラムス)は「加入から数週間しか経っていないロバートが、20年選手のメタリカを次の局面へと押し上げてくれた」とも語っている。前任のジェイソンがロバートと入れ替わるようにしてオジーと合流したのは実に皮肉なことだが、とにかく現在のメタリカは、ここ数年のうちでも最高にポジティヴで充実した状態にある模様だ。言うまでもなく、それは彼ら自身が『St. Anger』で確実にネクスト・ステージへと駒を進めたことを実感しているからだろう。
で、その『St. Anger』だが、実に激しく、たとえようもなく強烈な内容である。全11曲、トータル75分以上、しかも全収録曲のスタジオ・ライヴを収めたDVDを標準装備という作品形態も前代未聞だが、内容の過激さもほかに例を見ないものである。なにしろ遅い曲がひとつもない。ものすごいクォリティーの音質でありながら、同時に非常にイビツな手触りを持っていたりもする。良い意味で、全編聴き通せば、そこには相当の疲労感が伴うことになる。が、それがたとえようもなく心地良いのだ。また、耳に突き刺さる感触が、彼らの過去のどの作品とも違う。巷では〈古き良きメタリカが帰ってきた〉的なことも言われているが、これは単純な原点回帰ではない。
とてつもなく高い完成度とヴォリュームを誇る最新型ハードコア・ミュージック『St. Anger』。この音の洪水が、12年前の〈ブラック・アルバム〉と同じような現象を引き起こすかどうかはまだわからない。が、ひとつだけ確かなのは、メタリカがいまのメタリカにしか体現し得ないものをカタチにしたということで、2003年以降のロックを変え得るアルバムになったということだ。
6月からはヨーロッパでのフェスティヴァル出演を中心としたツアーを開始する彼ら。言うまでもなく、ほとんどはヘッドライナーとしての出演である。そして7月4日には、リンキン・パーク、リンプビズキットなどを従えての全米スタジアム・ツアー〈Summer Sanitarium Tour〉もスタートする。〈これまで〉のロック史のなかで常に異端児であり続けたメタリカは、いまもクラシック・ロックなどではあり得ない。誰よりも革新的でありながら、同時に誰よりもオールマイティーなロック・バンド。広く祝福されるべきメタリカの本当の黄金時代は、もしかするとこれから始まるのかもしれないのである。
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