Ashanti(2)
歌えるアシャンティ
ところが。マスタリング中の新作をマイアミのスタジオまで追いかけ、やっとの思いで試聴にありついた本アルバムがスピーカーから爆音で流れ始めた瞬間、思わずCD-Rのラベルを確認してしまった。……これホントにアシャンティ? まるで新しく生まれ変わったような、伸びやかで張力漲る迫力のヴォーカルが、予定不調和に戸惑う鼓膜を不意打ちのごとく直撃してくるのだ。度胆を抜かれる、とはまさにこういうことか!
「とにかく歌いたかったのよ! ファースト・アルバムを自分で聴いて、みんなに楽しんでもらえるとは思ったけれど、たぶん私の歌唱能力を疑う人も出てくるだろうとは予想していたの。あの時はとにかく急いでアルバムを仕上げなきゃいけなかったから、十分に自分を出し切ることができなかったのよ」。
「ファースト・アルバムの時に彼女のヴォーカルについてとやかく言う奴らのことは〈何もわかっちゃいねえな〉と思ってたよ。俺が彼女にそうさせなかっただけなんだから。あのアルバムではもっとコンセプトやひとつひとつの曲を大事にしていたから、それに合わせた歌入れができたら、ヘタに時間はかけないで次の曲へと進むようにしていたんだ」(アーヴ・ゴッティ)。
驚くなかれ、ハードコアでサグ魂全開の男衆のなかには〈R&B=感情的な女々しい音楽〉と信じて疑わない者も多い。みずからを「骨の髄までヒップホップなクリミナル」と呼ぶアーヴが初めて手掛けたR&Bアクトという経緯もあり、ファースト・アルバム『Ashanti』は極めてヒップホップ的な感覚による監督のもと、トラックとの相性や、全体的なグルーヴを意識したプロダクション方式が採用され、過剰な感情表現を抑えたコンセプチュアルな作品となった。しかし、その試みを見事大当たりさせた安堵心と自信が、プロデューサーとシンガーの両方をグンと成長させ、より自由な視野を与えたことは、本作を聴けばあきらかだ。
「夏っぽくて、気分が良くなるようなレコードね。温かいマイアミで楽しくやりながらレコーディングできたし。それから前よりももっとヴァラエティーに富んでいるわ。扱っているトピックにしても、前みたいに恋愛関係のことばかりじゃなくて、14歳から始まった私のキャリアのことについても歌っているし。モータウンみたいな雰囲気の曲もあったりして。歌詞にしても、音楽にしてもヴォーカルにしても、すべてが前よりもグレードアップしているのよ」。
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