インタビュー

Alicia Keys(3)

伝えたいメッセージ

――他にも冒険したことはありました?

「ピアノ・プレイヤーという面では、スティーヴィー・ワンダーが使っていたようなムーグやエルトン・ジョンが使っていたようなメロトロンなど、古いキーボードが奏でる独特のサウンドを使ってみた。それに、キーボードを使って自分だけのオリジナルの音と呼べるような、歪んだ感じのギター・サウンドも創り出したのよ」

――カヴァー曲としてグラディス・ナイト&ザ・ピップスの71年のヒット曲“If I Were Your Woman”を取り上げていたり、他にも70年代を思わせる曲がありますが、そういった音楽の魅力とは何でしょう?

「あの時代の音楽が素晴らしいのは、とても自由なところね。お決まりのパターンもないし、当時の人たちはいろいろなことにチャレンジしていたわ。“You Don't Know My Name”の中盤で、私がただ話をしているだけの部分があるんだけど、ああいう音楽は長い間聴いたことがなかった。でも、あの頃にはそういう曲があったでしょう? ひと息つける曲というか、じっくりとストーリーに耳を傾けられるような。それが私の好きなところなの。実験的だし、社会的にも当時の人々はもっとコンシャスで政治的だったわ。意見っていうものを持っていたし、伝えたいというメッセージがあった。私にとってもそれは大切なことだと思っているの」

――今回のアルバムにメッセージの強い曲はありますか?

「“Nobody Not Really”。マーヴィン・ゲイの『What's Goin' On』に入っている“Flyin' High(In The Friendly Sky)”のスピリットが生きていると思えるような感じの曲で、自分の考えていることや気持ちを伝える声を持っていない、人々は自分が何を思っているかを立ち止まって尋ねてくれたりはしない、と感じている小さな子供が、〈私はただここにこうして無力なままでいるのかしら、それとも私にはそれよりももっと大きな意味があってここにいるのかしら? そもそも誰が私のことなんか気にかけてくれるの?〉と自問しているような感じの曲よ。あともう1曲、二重の意味を持った曲があるの。愛やそれにまつわる苦悩についてにも、国が味わう苦悩についてにも聴こえるような曲。それがどの曲かは自分自身で聴き取ってね」

 結局、最後の最後までミックスやヴァージョン違いを含め、収録曲についてやり取りが繰り広げられていたらしく(アリシアが語っていた“Streets Of New York”は日本盤のみ収録のボーナス・トラックとなった)、その全貌は直接作品を聴いて確かめてほしい。でもそれだけに、完璧主義者のアリシアがどんな自信作を新たにミュージック・シーンに提示してくるか、楽しみだ。

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掲載: 2003年12月04日 16:00

更新: 2003年12月04日 18:32

ソース: 『bounce』 249号(2003/11/25)

文/伊藤 なつみ