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インタビュー

ZAZEN BOYS(3)

ナシなものをアリなものにしていく

ZAZEN BOYSの音楽はとにかく強い。スピーカーから吐き出される音と言葉は抑えようもなく、耳に、頭に、そして心に突き刺さってくるのだ。

「表現力を〈強いもの〉にしていきたいっていうのはとにかく考えていたことで、そうなるとリズムっていうことになるだろうし、リズムだけじゃなく、言葉尻なんかもはっきりくっきり強くさせる。つまり、全部ひっくるめての話なんですけどね」。

 変わったのは、言葉や歌の強さだけでなく、本作の歌い方のヴァリエーションにも表れている。たとえば、冒頭の“Fender Telecaster”では初期のプリンスを彷彿とさせるファルセット・ヴォイスを、そしてアルバム全体に散りばめられたラップとも念仏ともつかない呟き、あるいは浪曲の影響と思しきドスの利いたようなヴォーカルなど、ナンバーガール時代には考えられなかった表現が次から次に飛び出してくる。

「良くも悪くもナンバーガールっていうのは、無意識だけど〈これはアリこれはナシ〉っていうふたつの形があって。でも、いまはそれが完全に解き放たれてますよね。もともと、プリンスの“I Wanna Be Your Lover”なんかすごく好きだったし、やってみたら――高いところはぜんぜん出せてないんだけど――雰囲気があるからいいかな、と。それは浪曲なんかもしかりで、語り部として非常にブルージーである、と。で、やってみたら、おもしろい。その積み重ねがこういう結果になってるのかな、と。結局、どんなことをやっても、自分のものになるんです
よ」。

 そういって、彼はギターを手に取ると、アンプのスウィッチを入れ、女言葉で書いた“SI・GE・KI”を歌い始める。

「この曲は、アレンジを変えて女性、それもR&Bシンガーに歌ってもらいたい。例えば、ジャネット・ジャクソンとかDOUBLE、あとSUITE CHICにおける安室ちゃんなんかがいいですねぇ。嬉しくもナンバーガールってのは非常に熱のこもったファンが多かったんですけど、それはある種のイメージがあったからだと思うんです。だから、R&Bのシンガーとやるのはナシだろうって思う人も多いはずですけど、そのナシなものをアリなものにしていくのがおもしろいんだと言いたいですね」。

 アルバムに収められている“SI・GE・KI”は、ドラムンベース的もしくは8ビートを分解したような楽曲だが、それをファンキーかつメロウに目の前でアレンジしてみせる向井秀徳。いつのまにか歌声もジャネット風に。そこにループを組んだら、いい感じのR&Bになるであろうことは、それを聴いて容易に想像できた。

「ウーハーにブラック・ライト……そういう、夜の匂いを出す、ということは意識しましたね。でも、俺がやると、どうやらスタイリッシュだったり、クールにはならないらしく(笑)、それはしょうがないな、と(笑)。でも、このアルバムはまだまだ初期段階ですよ。ここからドライヴしていくんで」。

 どうやら、彼の〈都会〉に対する妄想的なイメージはZAZEN BOYSの音楽を刺激し、際限なく膨らんでいるようだ。

 歪んでしまったアーバン・ミュージック――都会的なイメージで宣伝されている煙草、セーラム・ライトを美味そうに吸っている向井秀徳を眺めているうちに、そんな言葉が思い浮かんだ。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年01月22日 12:00

更新: 2004年02月19日 17:04

ソース: 『bounce』 250号(2003/12/25)

文/小野田 雄

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