インタビュー

Syrup16g(2)

僕はすごく適当な人間なんですけど……

「やっぱり、“リアル”がアルバムのリード曲になったのがデカかったんですよね。“パープルムカデ”(2003年9月発表のシングル)や“My Song”っていう楽曲の延長線上にあるようなアルバムじゃない……なんかそれとは別のものっていうか、それ以降の〈いまの自分の気持ち〉ってものを出さなきゃ、次のアルバムは絶対にダメだなっていうのは思ってたんです。だから、“パープルムカデ”や“My Song”ももちろん入ってるんだけど、そこに“リアル”が入ることによって、アルバムとしての新しい流れが出来た気がするんですよね」(五十嵐隆、ヴォーカル/ギター:以下同)。

“リアル”は、まさしくみずからが生み出す〈音楽〉についての歌だった。虚構や幻想、ましてや逃避などではなく、自分が奏でる音楽と言葉こそが〈リアル〉なのだと言い切ってしまうこと。アルバム『Mouth to Mouse』に収録された楽曲は、激しい曲から静かな曲に至るまでのすべてに、そんな彼らの気概と迫力が漲っているのだった。

「最初、次のアルバムでは、これまでの自分たちにはなかったものを提示していきたいと思ってたんです。なんていうか、自分のなかの適当さみたいな部分をもっと提示していけたらなって。syrup16gって、ちょっとナイーヴでシリアス過ぎるバンドだと思われてるみたいなんですけど、実際の自分はぜんぜんそんな人間じゃなくて……だから、適当さみたいなものを出していくことによって、自分もスッとするんじゃないかなって。で、適当な歌詞をいっぱい書いてみたんですけど……どうも、それでは僕は救われないらしく(笑)。やっぱり、そんなことではいかんのかなと。メロディーとかのニュアンスは絶対崩したくないし、そこで言葉ってものをちゃんと伝えないといけないのかなって……まあ、あたりまえの話なんですけど(笑)。だから、結果として今回のアルバムは『HELL-SEE』のときよりも、もっと生々しいというか、最初に考えていた超適当で無責任な感じ……自分が思ってる〈セクシャル&ヴァイオレンス〉みたいな発想からは、すごく遠いものになりましたね」。

 セクシャル&ヴァイオレンス?

「そうです(笑)。要するにいままでのsyrup16gに欠けていたもの……女の子とかね(笑)。そういうのないじゃないですか。やっぱり『HELL-SEE』とかを聴いてセクシャルなものを感じるかっていうと、感じないわけで。そこでコミットする人は少ないだろうなって。で、それはもうやったから、今度はその逆をやることによって、自分のなかの適当さっていうか、自分のなかの新しい感覚みたいなものが楽しめるんじゃないかと。でも……そうはなりませんでしたね(笑)。そこは自分のなかのヘンな優等生的感覚っていうか、責任感というか、やっぱり〈もっと言葉をくれ!〉っていう人たちの期待には沿わねばならんみたいな……。僕はすごく適当な人間なんですけど、音楽を通してだけは、ある種正直にっていうか……やっぱり、僕にとって音楽は、他者とのコミュニケーションをとる唯一のツールなんですよね。だから、それを通して僕と関係してくれた人にヘンなことはできないなって。まあ、それが重いっていうのもあったんですけど……でも、そこをなんとか、いつ裏切ろうかって考えながらも、結局自分のなかでギリギリ違和感のないことを言えたっていうのが“リアル”だったんです」。

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掲載: 2004年05月13日 11:00

更新: 2004年05月13日 19:09

ソース: 『bounce』 253号(2004/4/25)

文/麦倉 正樹