インタビュー

Syrup16g(3)

いまの流れ、いまの自分

 登場以来、その美しく完成されたソングライティングとは裏腹に、みずからの内面に渦巻く偽善や欺瞞を暴き立てるような言葉を歌い続けてきたsyrup16g・五十嵐隆。しかし、彼にとって音楽とは、なにも鬱屈した思いを吐き出すための手段などではなく、自分に残された最後のコミュニケーションとして機能するような、なによりも崇高で美しいものであったのだ。内面に渦巻く厭世的な思いを誤魔化すことなく、自分にとって嘘のないギリギリの〈リアル〉を誠実に言葉に換えてゆくこと。syrup16gは本作において、まるでヘドロの中で砂金を掬うかのように、希望や夢、そして未来さえも、みずからの〈リアル〉な音楽によって掬い出そうと試みるのだった。

「これまで、自分の感情みたいなものを切り取る、ってことをやってきて、そのなかでいちばん不得手としてきたのが、前向きさとか希望みたいなものだったんですよね……。そういうものに手を染めた時点で、自分の作品が薄くなったりするんじゃないかっていう。聴いてくれる人からも〈ウソツキ!〉とか言われるんじゃないかって。だから、そう言われないために、“希望”とか“夢”とか、そのものズバリをタイトルにして、それに対して〈俺はこう思う〉みたいなことを正面からちゃんと言い切ろうと思ったんです。だから、今回のアルバムには『HELL-SEE』みたいな狂気はないかもしれないですけど、“リアル”や“夢”や“希望”って曲を書いても、そんなに罪悪感がない自分がいるんで、それでなにか言われたり石とか投げられたりしても、そんなに痛くないだろうなっていう気持ちになってるんですよね。まあ、もう30歳になっちゃったんでね、10代のころの情熱とかリビドーみたいなものはやっぱり薄くなってるので、そこに対して突っ込んだ部分っていうのは薄れてるのかもしれないけど……でも、自分の人生はそうやって流れてきちゃってるんでね。それに沿ったものをやってかないと、それはそれで作品を薄くする行為なんじゃないかなって思うんです。だから、トータルで考えて、人間はこうなっていくっていう、ひとつのモデルケースにはなってるんじゃないですかね(笑)。人間ってものは、結局最後に夢とか希望とか、そういう救いを求めてしまうんだっていう……その、すごく絶望的な感じをね。〈そんなの関係ないぜ! 俺は30歳で死ぬぜ!〉っていうのじゃない〈リアル〉を、今回のアルバムで提示できたんじゃないかなと。それはもう、〈ロックンロール〉じゃないのかもしれないけど、自分のなかで〈ロックンロール〉であれば、それはそれでいいんじゃないかなって。だから今回のアルバムは、完成度とかとは違う意味でのマスターピースになったとは思うんです。いまの流れっていうか、いまの自分っていうものに辿り着くまでの作品にね」。

 爆発寸前の狂気を真顔で歌う〈ダーク・ヒーロー〉としてではなく、日々やるせない無力感や絶望に苛まれながら、それでも明日を夢見てしまう、ひとりのあたりまえの人間として、誠実に音楽を奏で歌うこと。聖なる音楽と俗物たる自分の間で引き裂かれ続けてきたsyrup16gが、ようやく辿りついたひとつの真実。本作に収録された楽曲が、これまでのsyrup16g以上に力強い輝きと美しさを放っているのは、なにも偶然ではないのだ。

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掲載: 2004年05月13日 11:00

更新: 2004年05月13日 19:09

ソース: 『bounce』 253号(2004/4/25)

文/麦倉 正樹