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インタビュー

Converge

ハードコア・シーンのトップランカー、コンヴァージが、あらゆる要素をハイ・テンションで結実させたニュー・アルバム『You Fail Me』をリリース!!

孤高のバンドによる孤高のアルバム


 夢でも見ているような気分だ……。前作『Jane Doe』から待つこと2年。ついにコンヴァージのブランニュー『You Fail Me』がお目見えした。これが実に素晴らしい! 前作も確かに、息をもつかせぬ複雑な展開と鋭利なサウンドで極限を見せつけ、傑作との誉れ高い。私も正直、これが彼らの頂点だろう、ぐらいに思っていた。が、今作で彼らは、より起伏の激しい構成とスペックの多さで、前作を凌ぐ作品を作り上げた。高速で激しく荒れ狂う“Black Cloud”“Hope Street”、メジャー・コードを冒頭でいきなりかます“Drop Out”、引きずるように重く刺々しい“You Fail Me”。そして興味深いのが、アコギ1本から始まって、次第にドロドロとしたディストーションをかけていく“In Her Shadow”。一曲ごとの深遠さと振幅の大きさが、聴き手の心に深く食い込み、かき乱す。

「よりダイナミズムを加えたかったのは確かだね。ソングライティングに深みを与えたかったんだ。これまでも多彩な要素を採り入れてきたけど、そのことが今回のアルバムでより明白になったね。いままでの作品のなかで、もっとも洗練された作品ができたと自負してるよ」(ジェイコブ・バノン、ヴォーカル:以下同)。

 一方でアグレッシヴさを持ちつつ、他方でセンシティヴな面も覗かせる。そのバランスの良さが、彼らの音楽をより深化させている。自身でもそのあたりは意識したのだろうか?

「もちろん。聴きやすいと同時に、俺たちが伝えようと思っている表現がきちんと伝わるようなアルバムにしたいと思ってたよ。超音速でプレイしてたら実現できないことだからね。音楽の深さが伝わるようなアルバムにしたかったんだ。曲自体に〈意味〉とパワーがしっかりあったしね。自分たちをも刺激し、心を動かし、感情面においても創造することにおいても挑戦となるような音楽を絶えず作っていくこと。それこそが、この作品のもっとも大きなテーマだったね」。

 では、彼らが掲げた〈意味〉とは?

「これは〈失敗〉についてのアルバムなんだ。俺や俺の親しい人たちの人生について、どんな経験をしてきて、どんな思いをしてきたか、不運にもこれまで経験してしまった悲劇や失敗などが、俺や俺の周囲の人たちの人生にどのように影響を及ぼしたのかという内容だ。自分の取った行動に対する責任や、下降線を辿っていく過程を遮って自分自身のなかに潜む悪を直視することで、問題を克服することの大切さを表現したんだ」。

〈You Fail Me=おまえは俺をだめにした〉──その一見救いのない言葉をあらためて思い起こす。一体何が?などと野暮な詮索はすまい。なぜなら、ずっと彼らは、歌詞は重要、しかし歌詞に囚われてほしくない、というスタンスを貫いてきたからだ(前作では、歌詞カードの印字の上に、あえて読めないほどにデザインを施していた)。とはいえ、この真摯な観念はやはり気になる。例えば〈9.11〉やイラク戦争など、アメリカの社会に影を落とした出来事を意識したということはなかったのだろうか?

「まったくと言っていいほど、意識しなかったな。社会問題や政治問題に影響されたところもまったくなかったね」。

 いわく「非常にパーソナルなスタンスを持ったバンド」という彼ら。社会的/政治的なことには、一切こだわらない。たとえそれらが彼ら個人の内面になんらかの影響を与えたとしても、作品作りには反映させない。あくまでも己に忠実に。それが彼らのスタンスなのだ。そして、表現スタイルにはとことんこだわる。プロデューサーは立てないし、アートワークもすべて自前。

「プロデューサーは必要性を感じなかったから、考えもしなかった。エンジニアは前作と同じ人に来てもらったけど、基本的にはバンド自身が仕切ってやってたよ。そして、アートワークは今回も俺のデザインさ。音楽から歌詞、それに視覚的な面まで、すべてが一つの作品を作り上げている。そういう意味では一貫した作品だね」。

 ここであらためて歌詞カードに目を転じてみよう。今作ではいちおう歌詞は判読できるものの、曲ごとの区別もなにもなく、イメージを伝えるだけの言葉の羅列。これはやはり、曲のイメージを歌詞のみに集約させないための配慮だろう。ネガティヴな歌詞を激しさを極めたサウンドが引き受け、それぞれの楽曲のイメージを歌詞が補完し、トータル・イメージをアートワークが総括する。こうして構築された彼らの作品は、だからこそ毅然として、迷いがなく、美しい。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年10月07日 12:00

更新: 2004年10月14日 17:51

ソース: 『bounce』 258号(2004/9/25)

文/おだ ゆみこ