インタビュー

THE ZOOT16

多様なエッセンスを存分に呑み込み、愛おしいグルーヴを奏でる渡辺俊美のソロ・プロジェクト――THE ZOOT16。新作『RIGHT OUT!』に宿されたわびさび極めたサウンドに乗って、いま黒豹が走り出したぞ!


 TOKYO No.1 SOUL SETで見せていたギタリストとしての顔や、作品にメランコリックな匂いを漂わせる甘い歌声、あるいはジャズをメインにしたDJプレイの印象が強いこともあり、SOUL SET休止後に始動させた渡辺俊美のソロ・プロジェクト=THE ZOOT16が一体どんなことをやろうとしているのか、最初は想像もつかなかった。

「川辺(ヒロシ)くんの出すサウンドはむしろ好き過ぎるぐらいだし、BIKKEはBIKKEで確固としたスタイルがある……じゃあ自分は何なんだろう?とか、自分には何ができるんだろう?っていうのを実験的な感じでやりはじめたのが(THE ZOOT16を始めた)きっかけです」。

決してテクニックではない

 そうしてまずあきらかにされたのが、昨年2月にリリースされた7曲入りのミニ・アルバム『ZOOT16』だった。渡辺自身がほぼすべての楽器を担当し、そこにサックス奏者とマニピュレーターがアシストすることで生まれたのは、サーフ・ロック、パンク、レゲエ、リズム&ブルース、ラテン……と彼が通過してきた音楽体験をぶち込めるだけぶち込んだような(ジャケのアートワークにも通じる)粗野な肌触りが斬新な、衝動的な一枚だった。それから約1年半を経て完成したのが、初のフル・アルバムとなる『RIGHT OUT!』だ。部屋中にアナログ・レコードがぎっしりと収納されているZOOT SUNRISE SOUNDSのオフィスの片隅に置かれたいくつかの楽器と機材のみで作られた本作は、サウンドの根幹にある音楽性や制作方法そのものに、前作と大きな変化はない。

「たとえば、リズム・ボックスでドラムを鳴らして、ギターを合わせて仮歌を入れて。詞を書く前にメロディーと構成を決めていって、キーボードやベースを入れて……最後に歌詞を入れる。サンプリングはほとんど使ってないです。レゲエのドラムの音が欲しいとか、そういうときだけですね。初めに思いきり詰めこんじゃうんですよ。それをあとから抜いていく作業のほうが時間的には長い。それはヒップホップやレゲエの作業に近いかもしれない。最終的にどれを際立たせるか?っていうね」。

 そうして構築されていったアルバム『RIGHT OUT!』だが、その完成型はいびつだ。いびつなのだけれど、きわめて美しく、そしてロマンに満ちている──くぐもったビートに強引にカットインしてくるような甲高いスネアのフィル、狂気を孕んだエレピのチープな音色、乾ききったギターのカッティング、漂泊するように紡がれていく哀感を湛えた歌──それらは、渡辺俊美がリスナーとして音楽を捉えるときに、そのどこに強烈な魅力を感じるのか、どの音に耳が向いているのかという聴き手としてのツボをストレートに表現したものであるし、きっと彼のアタマの中ではこんなバランスで音楽が鳴っているんだろう。そして、そこから想像できるのは、一枚のレコードに記録された音の向こうに広がる情景や、プレイヤーが演奏に込めた想い、あるいはそのジャンルが確立されていくまでの歴史や、それから流れていった時間や派生していく新しい表現……音楽に耳を傾けながらさまざまなストーリーに想いを馳せている渡辺俊美の姿だ。THE ZOOT16に感じるロマンは、そこに起因しているのかもしれない。

 だから、なのだろうか。『Right Out!』に収められた音の、質感へのこだわりは徹底されている。前作と比べて大きく進化している部分といえば、間違いなくそこだろう。

「むしろそこしかないっていうか。スタイルや奏法は、たぶん真似できると思うんですよね。だけど雰囲気や音の質感っていうのは、その人のセンスだと思うから。そこに限界点はないし、常に求めていきたい……ジャズもそうだけど、決してテクニックじゃないんですよ」。

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掲載: 2004年10月28日 16:00

更新: 2004年11月04日 18:28

ソース: 『bounce』 259号(2004/10/25)

文/宮内 健