Roni Size
火を吹くようなハイブリッド・グルーヴ! 前進をやめないロニ・サイズのニュー・アルバム『Return To V』は、過去を見据えつつ未来を指向した大作になった!!
俺たちは原点に戻った
「メジャーとかアンダーグラウンドとかはもう死語だと思うよ。俺たちの作ってきた音楽だって確かに最初はフロア向けなトラックが多かったからアンダーグラウンドだと呼ばれるかもしれないけど、ヴォーカルが入っててラジオで流れるようなトラックだってあるんだ。だからって、それがメジャー路線だってわけでもないし、アンダーグラウンドとしてカテゴライズするのも可笑しいと思う。だって、考えてみろよ。50セントはメジャー・レーベルにいるけどアンダーグラウンドな音楽をやってるだろ?」。
〈イギリス版グラミー賞〉ともいえる〈マーキュリー・プライズ〉の受賞をはじめ、レプラゼントでの大きな成功により、ドラムンベースを、そして自身の名をポップ・フィールドの隅々にまで轟かせてきたロニ・サイズ。その活躍はドラムンベースがメジャー・フィールドでもやっていけることを十分に示してきたわけだが、近年は彼のホームグラウンドであるフル・サイクルでの活動が中心となっている。しかしロニ本人としては、特にどこからリリースするべきかは大した問題ではなく「俺たちらしいユニークな音楽を作り続けるだけ」という、難しいことではあるが、アーティストとしては非常にシンプルな信念を持って動いているようだ。それを裏付けるようにフル・サイクルからの『Touching Down』に続くロニ・サイズ名義でのセカンド・アルバム『Return To V』は、ヒット・ポテンシャルを秘めながら、ダンスフロアからも好まれるであろう作品に仕上がり、しかも彼の原点でもあるレーベル=Vへの高らかな復帰宣言とも解釈できるタイトルが付けられているのだ。
「俺はマーキュリーやらXLやら、いろんなビッグ・レーベルと仕事をしてきたよ。世界を飛び回ってデカいレコード会社のデカいスタジオでもレコーディングした。でも、俺たちの原点はVにあって、彼らがまだ何者でもない俺たちを拾ってくれたんだ。だから俺たちは感謝の気持ちを込めて原点に戻って、『Return To V』という形でアルバムをリリースしたってわけさ。もともとVとはずっとアルバムを作る約束をしていたんだ。遅くなってしまったけど、やっと出せて良かったと思っているよ」。
その『Return To V』だが、DJユースな完全なるフロア・トラックで埋め尽くされていた前作との違いはあきらかだ。
「このアルバムは俺にとって5枚目の作品なんだ。ここまでくると、さすがに俺もちょっとは成長したし、いろんなことにチャレンジしてみたくなるもんだよ。だから今回は多くの人の力を借りて、俺たちのライヴ・ステージでやるようなパフォーマンスをそのままスタジオに丸ごと運んでしまったような感覚の作品にしたかったんだ」。
こう話すように、すべての曲でシンガー/MCが起用された今作には、R&B~ヒップホップ・タッチのミッドテンポ・トラックも用意されている。まさに目の前でライヴが行われているような錯覚を誘う、アルバム・トータルの流れが絶妙にコントロールされているのだ。いくつかの例外を除けば、収録曲は以前からストックしてあったもので、そこから気に入ったものをヴォーカリストやMCに渡し、ダイやクラストの意見を仰ぎつつ、新しいものへと作り上げるべく編集を施していったらしい。
「長年の仲間や友達、気付いたら交流が続いていた知人……そういう仲間だけを集めてやったんだ」という共演者には、タリ、ダイナマイトMCといったお馴染みの人選から、ビヴァリー・ナイト、ジョセリン・ブラウン、ヴィクター・デュプレーなど意外なところまで、個性豊かな豪華タレントがズラリ。特に「ヴィクターは知人を通じてマイアミで会ったんだ。俺は前から彼のファンで、本当に素晴らしいシルキーな声をしているよ。実は彼との共作はもう5、6曲あるんだ。いつか発表する場ができるといいんだけど」ということなので、この夢のようなコンビはまだまだ楽しませてくれそうだ。
▼『Return To V』に参加した身内アーティストの作品。
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2004年10月28日 12:00
更新: 2004年10月28日 17:57
ソース: 『bounce』 259号(2004/10/25)
文/青木 正之