インタビュー

Seu Jorge(2)

ブラジルに住む僕らは本当にラッキーだ

 このように多角的な注目を集めるなかリリースされた彼のセカンド・ソロ・アルバム『Cru』。フランスのファヴェラ・シックによって制作され、プロデュースは同レーベルのグリンゴ・ダ・プラダが担当している。存在感溢れる歌声や、表現の底にサンバやブラック・ミュージックのエッセンスを色濃く感じさせる点はこれまでどおりだが、ストイックなまでに音数が絞られ、ブルージーな渋みさえ漂う内容であるのには意表を突かれた。

「このアルバムはよりシンプル、より〈Cru=生〉なもので、平和、愛、神、そして静穏をテーマにしている。同時に、君がズボンを洗濯したり、髭を剃ったりしているときのバックグラウンド・ミュージックとしても聴ける作品だと思うよ。多くの人はテクニックによって音楽を磨き上げようとするけれど、僕はちょっとラフなものを加えて音を磨き上げるように試みたんだ」。

 これまでは主にそのサウンド面が話題となってきたセウ・ジョルジだが、このアルバムでは彼のシンガーとしての個性も前面に押し出されている。このようにシンプルな作品作りがなされた背景には、ブラジル国外での活動が増えたことも影響しているのだろうか。

「もちろん。ここ2~3年の間、僕は何度も旅行をしていて、なかでもパリで多くの時を過ごしたんだ。ヨーロッパに行くたびに感じるのは、ブラジルに住む僕らは本当にラッキーだということ。僕らがブラジル音楽にある精神、エモーションの陽気さを受け継いでいることを海外で再認識させられるんだよ。ヨーロッパの人々は世界における秩序、あるいは階級社会のなかでプレッシャーを感じている。それで、それらを解放してくれるブラジル音楽を愛してくれるんだと思う。ということもあって、今回のアルバムはブラジルよりもインターナショナル・マーケットにアピールする作品だと信じているよ」。

 ブラジルのストリート・シーンを体現しながら、同時に世界的なステージを視野に入れて制作された本作中、新しい試みとしてもう一点話題になっているのが、エルヴィス・プレスリー“Don't”やセルジュ・ゲンスブール“Chatterton”といったカヴァー曲のチョイス。特に後者は、〈Nao Vou Nada Bem〉というポルトガル語のフレーズも盛り込まれた、ユニークなカヴァーに仕上がっている。

「〈Nao Vou Nada Bem〉――これは〈私はそれほど良くはないが、自殺するほどのものでもない〉という意味。ブラジルでの自殺率はとても低いんだよ。なぜなら、お墓の土地代など、死ぬにもお金がかかるからね。僕らはそんなお金なんか持っていないよ! 第一、もし君がそんなことに使うお金を持っているのならば、どうして自殺なんてする必要があるんだろう? 人生は確かにハードなものだけど、それでも基本的には、どこかに生きる希望があるはずだよ」。

 うーん、なんたるキラーな返答……。「モロ・ノ・ブラジル」を観た方なら、きっと彼が自身の路上生活時代を語るワンシーンを思い起こすに違いない。このような彼の生活者としての匂いが圧倒的なリアリティーを伴って聴き手に迫ってくるところが、セウ・ジョルジの音楽にはある。どんなアレンジや楽曲であっても、それを自分のものとして歌い切る説得力は、きっとこんなところに裏打ちされているのかもしれない。

 ところで、気になる今後の活動については「働き続けることだね」とシンプルに一言。映画俳優として成功するあまり、ミュージシャン活動に与える影響を心配する向きもあるが、「ミュージシャンであり、また映画俳優であることに関してはバランスを取るように心掛けているんだ」と語るセウ・ジョルジ。いま原体験できるもっとも刺激的なブラジル人アーティストとして、音楽・映画の両面で必聴、必見なり!
▼セウ・ジョルジが『Cru』でカヴァーした楽曲のオリジナル収録作品を紹介

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掲載: 2005年03月17日 12:00

更新: 2005年03月17日 15:46

ソース: 『bounce』 262号(2005/2/25)

文/成田 佳洋