インタビュー

ゆらゆら帝国(3)

サラッとしているんだけど濃い

「自分の好みはね、ヴォーカルにしても、声っていうよりも、声と楽器のミックスの感じとかトーンとか、あきらかにあるんですよ。だから知らないジャンルとかで知らないいい曲を探したいっていうのはあるんですけど……かといって、狂ったようにレコード買いまくってるわけじゃないですけど、一応あたりをつけて買ったり、人に教えてもらったり」。

「未知のジャンルじゃないけれど……ポール・マッカートニーのソロってやっぱりいいんだなって、最近思って。『RAM』とか『Paul McCartney II』とか。これまで全然聴いてなかったんで。それに安いじゃないですか(ニヤリ)。昔……20代前半の頃はジョン・レノンのほうが全然いいと思ってたんだけど」。

「僕ね、ザ・バンドがよくわからないんですよ。けっこう好きな人多いでしょ? 昔からどこがいいかわからなくて。もしかしていまなら良さがわかったら……どうしよう!?って思ってるんですけど(苦笑)。ヴァン・ダイク・パークスもよくわかんなくて、もしかしてこの勢いでアナログで聴いたら……って聴いたんですけど……やっぱりよくわかんない(笑)。だから良かったですよ……でもこの先、わかっちゃうときが来るのかなあ(苦笑)」。

 キャリアを重ねなければ出ぬ〈味〉というものがある。その〈味〉により演奏や表現力に深みや個性が滲み出たりするわけで、多くの表現者はその〈味〉によってさらなるキャリアを築いていくわけだ。逆に言うと長くやってりゃそりゃ〈味〉も出るよってなもんで、果たしてそれがおもしろいか? 興奮できるか? 若ぇヤツのハートをぶち抜けるか?ってのはまた別の話。ゆらゆら帝国のキャリアの重ね方は真逆。結成から16年、〈味〉に頼らず〈ロックのおもしろい部分〉を追求する、まさにイバラの道。その16年の意義が見えた会話で、この原稿を締めたいと思う。

 結成当初の自分に『Sweet Spot』を聴かせたら──?

「…………土下座するんじゃないですか? もう参りましたって(笑)。始めた当初はこんな曲作れなかったですね。(今の曲は)けっこうサラッとしてるでしょ? サラッとしたもの作れなかったです。サラッとすると、本当に薄~い感じになっちゃって……ただ薄いだけ。サラッとしてるんだけど濃い、深い……っていうのは作れなかったですね」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年05月26日 11:00

更新: 2006年08月11日 19:50

ソース: 『bounce』 264号(2005/4/25)

文/山内 史