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インタビュー

Miho Hatori(3)

分かち合うためのアルバム

 女は2度生まれる。たしか、川島雄三はそう言っていた。3曲目“In Your Arms”でいきなり飛び出してくる沖縄音階に驚かれる人も多いだろう。民謡好きな彼女の趣味がここに表れているわけだが、そのほかにもガムランやサンバといったさまざまなエスニック要素が、雑多でカラフルな世界を描く筆として用いられている。

「沖縄音楽って独特の色があるよね。リズムは大陸的な影響が残っているのかなって思うけど。〈騎馬民族的イメージ〉っていうかさ、馬の歩くリズムが聞こえてくるのね(トッコトッコと手でリズムを取る)、勝手な解釈なんだけど。とにかく掛け声とかスゴイ好きなの。あれこそ音楽的だって思う。サンバもそうだけど金持ちも貧乏人も関係なく踊って繋がれる、掛け声を合わせて。バイアォンとか、フォホーとかも好きなんだよね。とにかくハッピーになれる。アレ、なんだろ……お薬みたい(笑)。危なくない健康的なお薬ね(笑)」。

 本作の世界観を支えているのは数々の打楽器の音色(マウロ・ヒフォスコが担当)。なにはなくともパーカッション人間だという彼女は、「密林のイメージがするのよ。〈ガオー〉とか〈ピヨピヨ〉とか、ざわめき感が好き」と愛好する理由を語る。この、ざわめき感が非常にミソ。きっとほとんどの人が〈なんて静かな作品なんだろう〉という感想を抱くと想像するが、それはこの打楽器の使用方法の影響が大。つまり、彼女の深部を映し出す、〈Miho Hatoriの静かなる、内なる密林〉を具象化させるツールとして用いられているのだ。それにしても、実験性溢れるこのアルバムだが、きちんとウェル・メイドなポップ・ミュージック作として成立しているところが素晴らしい。

「たとえばノイズのような、独創的で理解困難な音楽も好きなんだけど、今回は採り入れようとは思わなかった。繋がり、シェアするっていうのかな、そういうものを生むアルバムにしたかったのね。で、とりあえず好きなものを作る! それで、みんなに聴いてもらえなかったら仕方ないぐらいの覚悟はあった。でも、容易いことじゃないね、決断するのは(笑)。小さな勇気が必要だった。たまに揺れちゃうから、どっちがいいかって。見えないものだから、自分自身は。見えないと辛いんだよね。でも、それがあたりまえだと思った。だって晴れの日もあれば雨の日もある、それが自然。その〈来る日〉をどうやって待つか。そんなフツーの作業をやる必要があった」。

「最近、トーキング・ヘッズを聴き直して、なんてNYっぽい音なんだろうと思ってたところ」と話す彼女。ああ、『Ecdysis』の坩堝的なサウンドスケープは、実にNY的だなと思う。明確に感じるトーキング・ヘッズから伸びた太い線、そしてそっくりな匂い。

「〈9.11〉以降、NYの街が安全になって、平均的に穏やかで豊かになってて、それはいいことなんだけど、お金持ちが住むことになったでしょ? だからミュージシャンが住みづらくなって、人々が出会うミーティング・ポイントがどんどんなくなっちゃって」と彼女は言う。だから、刺激的な新人との出会いもなかなかに難しいと。そうか。でも、このアルバムが若い連中を刺激して、なんらかのミーティング・ポイントになったりすれば、ね? そうなってほしいなぁ。

「CDショップに〈ヘンテコ音楽〉ってコーナーがあればそこに置いてもらえるかなぁ」と彼女からの提案。ヘンテコっていうか、う~ん、強いて名付ければ〈迷子系〉かなぁ……。

「そのネーミング、いいね! 棚から〈私を拾って~!〉って声が聞こえてくるようなCDね(笑)。私、絶対好きになる、そのコーナー!」。

〈銀河で迷子〉ってキャッチフレーズを思いついたんだけど、どう?
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カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年11月17日 15:00

更新: 2005年12月01日 18:34

ソース: 『bounce』 270号(2005/10/25)

文/桑原 シロー