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インタビュー

Anthony Hamilton(2)

ずっとソウルを持ち続けていたい

 そうやって生まれた約2年ぶりとなる新作『Ain't Nobody Worryin'』には、前作からの続投となるマーク・バトソンをはじめ、表題曲を手掛けたラファエル・サディークや彼の一派であるケルヴィン・ウーテン、さらにジェイムズ・ポイザーやクエストラヴらが制作スタッフとして参加。アンソニーいわく「ファンをガッカリさせない、前作の延長にあるもの」とのこと。あえて特色付けるなら、ディープなソウル感覚がより顕著になった、といったところだろうか。

「そうだね。かなりディープなソウルだと思うよ。大人になった人間が苦労の果てにやっと幸せになるっていうアルバムなんだ。音楽的にも質が上がってるし、すごく自信があるよ。クリスマスにも相応しいと思う。そう、〈グッド・ミュージック〉としか呼びようがないな。〈グッド・オールド・ミュージック〉だ」。

 まんまレゲエな“Everybody”という曲があったり、次のツアー(2006年3月頃)のタイトルにもなるという“Change Your World”は狙いすましたような70'sフィリー・スウィート・ソウル風の曲だったり、こうした〈黒いこだわり〉もツボを押さえている。

「“Everybody”はスピリチュアルで昂揚感のある曲だね。どんなに辛いことがあってもラヴを拒絶してはいけない、ラヴを受け入れてポジティヴに生きていこうっていう曲なんだ。リアルなレゲエだよ。プロデュースはジェイムズ・ポイザー。彼はジャマイカンだからね。俺はボブ・マーリーの大ファンだし、ダミアン・マーリーやルチアーノも大好きなんだよ。“Change Your World”は、まさにフィリーで録音した曲さ。これもジェイムズが作ったんだ。オールド・スクールっぽいだろ? 曲の終盤ではフィリップ・ベイリーのファルセット唱法をマネてみたよ」。

 そうしたオールド・スクール感に加えて、アンソニーの音楽はUS南部のルーツ感も非常に強い。現在、結婚して子供もいるという彼は生まれ故郷のノースキャロライナ州シャーロットに住んでいるそうだが(彼の地元生活の様子はDVD『Live & More』でも観ることができた)、新作には“Southern Stuff”というタイトルの曲があるし、〈ふくよかな女性〉について歌った“Sista Big Bones”なんかも南部で生活するナッピーなアンソニーならではの曲だろう。

「一度シャーロットに来てくれよ。スイカの町さ。サザン・ホスピタリティー(南部の温かいもてなし)、紳士的な物腰、野外バーベキュー……そういったものが俺の地元、南部なんだ。“Southern Stuff”では南部の女たちが好きな南部を描いてる。それと“Sista Big Bones”は、俺から見て豊満な女性はすごく魅力的だっていう歌なんだ。俺は肉付きのいい女性、ヒップと太ももが豊かな女性に惹かれるのさ。教会に行く女性を見ても、みんな豊満だ。特に南部ではそうだよな。それが凄く美しいんだ。それに性格のいい女性は肉付きもいい場合が多い。やっぱり心と身体とバランスの取れたヘルシーな女性がいいね。自分に自信を持っててスピリチュアルな女性って凄く魅力的だと思う」。

 さらに“Preacher's Daughter”は世界を救うことに必死になるあまりに自分の娘をないがしろにしている牧師(の父親)を歌った曲で、ここらへんのサブジェクトはいかにも教会出身者らしい。

「教会は俺、すごく馴染みが深いから。けっこうよくある話で、牧師だけじゃなくて警察官とかの子供たちも同様だよ。とにかく、南部のカルチャーは教会とグローサリー・ストアなんだよ(笑)」。

 そんな南部諸州を2005年8月末、ハリケーン〈カトリーナ〉が襲った。アンソニーの住むシャーロットは難を逃れたが、人々の無関心をテーマにした新作のアルバム・タイトルは、その災害も多少は念頭に置いて付けられたようだ。

「うん。ただ世間はそれを〈シーッ〉って話題にしない傾向がある。でも聖書にも書いてあるように、災害というのは起こってしまうものだけど、できるだけ多くの人たちを救うことが大切だと思う。新作のタイトルはこの世が始まった時から起こっている災害、伝染病とか飢饉、苦痛、それらすべてを対象にしているんだ」。

 と、牧師のような発言が似合いすぎなアンソニー。「最高の父親でありたいし、ずっとソウルを持ち続けていたい」と話す彼の、サザン・ホスピタリティーなソウルの表出はこれからも続いていく。


アンソニー・ハミルトンも参加した〈カトリーナ〉被災者へのチャリティー・アルバム『HurricaneRelief : Come Together Now』(RIAA)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年01月02日 17:00

更新: 2006年02月09日 20:47

ソース: 『bounce』 272号(2005/12/25)

文/林 剛

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