アンソニーがシーンに復権させた〈本物志向〉な歌声の魅力
アンソニー・ハミルトンのブレイクは確実にR&Bを(前向きに)ソウル回帰させている。ロウ(raw)なソウルと言うか、特にヴォーカル面において、それは顕著だ。アンソニーも「少し前まではイメージ先行だったけど、最近はちゃんと歌える声のいい人がもてはやされている。本物志向になってるよね。サム・クックとかそういう人たちみたいに……そこに俺も加えてほしいな(笑)」と語ってくれたが、アンソニーの歌声にそのサム・クックやボビー・ウォマック、アル・グリーンといった先達からの影響を見い出すことは難しくない。そういった面々の共通点は南部と密接な関わりを持ち、ゴスペルにルーツがあること。けれど一度はNYやLA、シカゴなどに赴いて都会的なセンスを身につけた彼らの音楽は、南部的な田舎っぽさを表出しつつも歌や音の質感はモダンでエレガントだ。激情迸らせながらも慈愛に満ちた優しくほろ苦い歌声。声質そのものからするとアンソニーはビル・ウィザーズとも似ていて、木炭の匂いがするようなカントリーなソウルからアーバンなソウルまでを分け隔てなく歌っているあたりも非常に近い。
こうした燻し銀タイプのノドの持ち主は、同郷シャーロットのK-Ciやカルヴァン・リチャードソンをはじめ、ジャヒーム、アーバン・ミスティック、ライフ・ジェニングス、そしてアンソニーも大絶賛するキンドレッド・ザ・ファミリー・ソウル(の旦那)など現代にも数多く、殊更に〈ソウル復権〉を謳わずとも熱く濃いソウルを発散しまくっている。痛快だ。
ボビー・ウォマックの76年作『Home Is Where The Heart Is』(Columbia)