インタビュー

Ben Harper(2)

音楽は重い錨を降ろす手段

 〈カトリーナ〉が来襲した翌日に生まれたという“Black Rain”や、イラク戦争に材を取ったような“Please Don't Talk About Murder While I'm Eating”といった明確なメッセージを持つナンバーもあるが、いまのベンにはこうしたテーマでさえ日常の1コマでしかないのだろう。その距離感が今作に人間的なゆとりをもたらしているのかもしれない。

「僕は自分の曲の意味をあきらかにはしないようにしたいんだ。ひとつだけ言えるのは、曲の題材になりそうな社会的/政治的な問題を探しているわけではない。でも、そういう曲を書く状態に追いこまれていることはあるね。またそういう内容の曲を書かなくてはならないとも思っているし。政治(的な問題)は常にまるで錨のように俺らの肩に重くのしかかっている。俺にとっての音楽とはその重い錨を降ろす手段。誰もが自分なりのやり方で主張をするだろう? 俺にとってはそれが音楽ってことなんだ。今回はそれをうまく出せるようになったと思うな」。

 お馴染みのワイゼンボーンを使うにもピック・アップは使わずにマイク一本だけで録音したり、アッシャー・エレクトロニック・ラップ・スティールというラップ・スライド・ギターでソロを弾いてみたりと、ギタリストとしての新たなチャレンジも本作には多く織り込まれている。いまも欠かさずにギターの練習を続けているというベン。とことん音楽にマジメであり続けてきたこの聖人君子は、いま新しい〈自分越え〉をめざして自身を解放させようとしているところだ。

「この作品は次の音楽的方向を示しているよ。これからますます俺の音楽は変化していくんだ。俺にとって音楽は新たなアート・フォーム。しかも、ヴォーカリストとしての自信もさらについたし、ソングライティングもこれから大きく飛躍すると思う。このアルバムを完成させた後に書いている曲はこれまでの曲とはまた違っていて、自分でも驚いているくらいなんだ。それはきっと自信がついたからそうなってきたんだろうね。ただ、個人的にはもっと強い人間になりたいと思っているよ」。

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掲載: 2006年04月06日 16:00

更新: 2006年04月13日 19:22

ソース: 『bounce』 274号(2006/3/25)

文/岡村 詩野