インタビュー

Juvenile(2)

政府は俺たちに借りがある

 前フリが長くなったが、最新作『Reality Check』で「大人のヒップホップをめざした」とコメントをするジュヴィナイル本人の軌跡は別枠を参照してもらうとして、ここしばらくヒップホップを聴き続けてきた人なら、それぞれの〈ジュヴィ解禁物語〉があるのでは。ルイジアナ州ニューオーリンズ産のヒップホップなんて、誰も気に留めていなかった90年代前半から地元→南部と着々と人気を浸透させ、全米の首根っこを押さえて〈こっち向けや!〉とばかりにのし上がり、累計1,000万枚近いアルバム・セールスを上げた男である。古巣キャッシュ・マネーを離れて〈一時代が終わった〉と勝手に業界が終止符を打とうとした時に、本人いわく「いまラジオでかかっているどの曲とも違うフレッシュな曲」だった“Slow Motion”と“Nolia Clap”という2つのスマッシュ・ヒットを放ち、今度は大手のレコード会社の獲り合い合戦にまでコマをひっくり返した男でもある。ドラマ満載。横顔にストーリーを感じるのは当然。

 粘着質のサウスもののなかでもさらに人間臭さを感じさせるのが、ジュヴィナイルの魅力だ。「俺はいま30歳で、結婚して、4人子供がいる。10代だけじゃなくて俺に近い世代、40歳以上にも通じる曲、なるべく広い層に通じるようにがんばったんだ」と当人。ちなみに子供の最年長は14歳。え? 16歳でパパになったの? ついでに書けば、13歳、7歳、6歳と続いて、ベイビーズ・マザーは2人とのこと。大人になった証拠は、音、リリック、そして周りへの気配りなど、そこここに見受けられる。“Slow Motion”のヒットにしても、「あの曲に関して、俺が威張れることはあんまりない。亡くなったソウルジャ・スリムが作って、〈この曲は俺自身がやるより、お前のアルバムに入れたほうがヒットすると思うんだ。俺ら2人のためにそうしてくれないか?〉ってくれた曲だから。彼は、あの曲の成功を見られなかったけど、天から見守ってくれている、という気分はすごくあるね」と淡々と話す。熱くなったのは、彼自身も被災者であるハリケーン・カトリーナの件に話が及んだ時。「俺を含めて、周りの人間全員がすべてを失った。できる範囲でショウをして励ましたり寄付したりということはやったよ。寄付金がこれだけ集まった、とかいう話は聞くけど、実際に被害に遭った人たちはその金を受け取っていない。政府は俺たちに金と謝罪の借りがあるよ。保証されるハズの生活が実現できていないんだから」とキツい。NYで行われたリスニング・セッションのオープニングでは、ブッシュ大統領のお面を被って救援物資をばらまく様子を映した映像を流し、「政府がやるべきだったことを示したんだ」とクールにコメントした。

▼『Reality Check』に参加したラッパーの作品を一部紹介。

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掲載: 2006年04月20日 17:00

更新: 2006年04月27日 19:46

ソース: 『bounce』 274号(2006/3/25)

文/池城 美菜子