インタビュー

エゴ・ラッピン(3)

隙間のなかでの表現の戦い

 EGO-WRAPPIN'の独特な魅力だな、といつも感じるのは、彼らのルーツとなっている音楽に対する〈距離感〉だ。

「同じ音楽やねんから、どこかで普通に繋がる部分っていうのがあって。その繋がりっていうのを感じられると、(EGO-WRAPPIN'の)曲に対する感動も広がるわけで。いままでにあるものと違うことをやったろか?っていう、裏切りたい気持ちもあるけど、どこかで繋がってるんだっていうところも、その端々に見え隠れしていると思うし。それをどういうカタチで聴かせるかっていうのが、いまの時代における僕たちの考え方っていうか。そこらへんをみんなにわかってもらえたら、より味わい深いんじゃないかな、と」(森)。

 客観性と批評性。それらを踏まえたうえでの、ルーツに対する揺るぎないリスペクト。そのスタンスは、まさに彼らならではと言えるし、オリジナルなものと言えるだろう。『ON THE ROCKS!』は、スマートかつヒップな佇まいで、EGO-WRAPPIN'の現在が記録されている。長いツアーを共に回ったバンド・メンバーを軸に作られた本作。シンプルなサウンドで物語のプロローグを予感させる“天国と白いピエロ”に始まり、エレガントなミュージカル・ナンバーのような“ニュースタイム”、強いメッセージ性を持った迫力満点のスウィング“Mother Ship”、淡々としたなかに刺激的なドラマを匂わせる“ロッテンマリー”や“レモン”、彼らの日常が垣間見える“マスターDog”“Sundance”、そしてモノクローム・セットのカヴァー“The Ruling Class”と続くニューウェイヴなロック・チューン、目まぐるしく変化する曲調とエフェクティヴなギターや幾重にも広がるコーラスがまさにトリッピンな“旅先案内人”、そして……。

「いちばん最後の曲“inner bell”は、緊張感ある録音やったかな。ホンマ、一定したリズムが刻まれてないような曲やから、体感速度をみんなで合わせていくのがすごく緊張感があって。ほとんどミックスせずに仕上げたようになりました。(これまでに比べて、本作のレコーディングに関わったメンバーの)人数が少ないぶん、隙間のなかでの表現の戦いになってきて。そういうところを考えるのがおもしろかったですね」(森)。

 大竹伸朗が手掛けた水彩のジャケットのように、さまざまな色が強く主張しつつも、それらが滲みあって新しい色が生まれているのは、結成10年の節目を迎えても常に新鮮な音を探し続けているEGO-WRAPPIN'の姿とダブって映る。

「(10年を振り返ると)早いなって思いますね。この早さであと10年過ぎたら、早すぎる!って(笑)」(中納)。

 この先の10年も、きっと彼らはその時々でやりたいと思ったことや、興味を持ったアプローチを取り入れながら変化し続けるのだろう。だからどんな音を出しているかはまったく想像がつかない。が、例えばふたりが40代になっても、しれっとその時代のヒップなことをやってそうではある。

「でも、音楽に対する気持ちは変わらんと思うけど。聖なるもんやから、嘘はつかれへん」(中納)。

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掲載: 2006年05月25日 21:00

更新: 2006年06月01日 22:09

ソース: 『bounce』 276号(2006/5/25)

文/宮内 健