インタビュー

Dirty Pretty Things(2)

余計なことは考えないで

「手術とかがあってしばらく音楽に集中できないっていうか、音楽をやってない時期が続いたんで、いざ曲を書いてみようかと思ったら頭の中がゴチャゴチャして、なかなか集中できなかったんだ。だけど、〈Fuck It! 余計なこと考えないで普通に書けばいいんじゃん〉って開き直ったら、あとはどんどん書けるようになったんだ」。

 今作のクレジットはバンド名義になっているが、実際のところはカールがほとんどひとりで曲を書き上げて、それをバンドでアレンジする形だったようだ。ロンドンの喧騒からあえて距離を置くかのように(そう、昨年ちょうどピートとケイト・モスのゴシップがロンドンを賑わせていた頃に、このアルバムは作られている)、LAのデイヴ・サーディとグラスゴーのトニー・ドゥーガンという2人のプロデューサーの住む場所で、レコーディングは行われた。

 メンバーが変わったからこそ、リバティーンズの音源とはそもそも演奏が違う。ダレてヨレた部分がなくなって、すっきり、しゃっきり、乾いた力強さが漲っている。演奏そのものは後期リバティーンズのライヴを思い出せばすんなりこの音に入り込めるだろうし、つんのめるようなパンク感は初期リバティーンズのそれとよく似ている。つまりは、あのバンドでカールがどんな役割を果たしていたのか、それがいかに重要なものだったか、そして15歳くらいから曲を書き続けていた彼のソングライティングの実力がいかほどのものであるかを、叩きつけるかのようにきっちり証明しているわけだ。

 ただ、ひとつ気になることがある。解釈は聴く側の自由に委ねられているとはいえ、ここから新たな道へと進んでいこうとするカールにとって、リバティーンズの頃と比べられるのは不本意ではないのだろうか、と。

「いや、比べられることはまったく気にならないよ。事実、俺はリバティーンズの一部であったわけだし、それに音楽に対する俺のスピリットに関しては、リバティーンズの時も今も何ひとつ変わらないんだから。それに、みんながダーティ・プリティ・シングスを聴いてみようと思う理由の多くはリバティーンズにあるんだろうから、比較されるであろうことは予想がついていたし。まとめると、音楽に向かうスピリットはあの頃と同じ、でもサウンドはあきらかに違う……というのが、俺の意見だな」。

 ああ、人間はどうやったらここまで強くなれるのか。もしかしたら気を張っていないとポキンと折れてしまいそうな場所にいまもカールはいるのかもしれないということを踏まえれば、彼の言葉から届けられる覚悟にはひたすら頭が下がるばかりだ。〈証明〉はこのアルバムで十分に果たした。だからこの先、彼がどう進み、どんな音楽を生み出してくれるのか――そのあたりも含めて、静かに応援し続けていきたい。心からそう思う。

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掲載: 2006年06月08日 14:00

更新: 2006年06月22日 19:47

ソース: 『bounce』 276号(2006/5/25)

文/妹沢 奈美