インタビュー

Christina Aguilera(2)

私は完璧主義なの!

 4年ぶりに届けられたニュー・アルバム『Back To Basics』で、クリスティーナはヴォーカルでもそれを存分に楽しんでやっている。何しろ、いままで一度も披露したことのないようなあらゆるヴォーカル・スタイルが、次々と飛び出してくるのだ。例えば“Candyman”でのスウィート&セクシーな声の使い方などは、まさにマリリン・モンローのよう。

「これはとっても楽しい曲で、狙っていたのはモンローというよりアンドリュー・シスターズの“Boogie Woogie Bugle Boy”みたいなものだったんだけど。ビッグバンドのフィーリングで、3パートのハーモニーが曲の間ずっと続いてて……確かに新しいスタイルよね。私は新しいスタイルを試すことが好きなの。例えばナイト・クラブでブルースを歌っているような曲もあって、そこではまた違う準備をして、違う歌唱法を試みたし。準備? あのね、俳優が使う演技法で〈メソッド・アクティング〉というのがあって、簡単に言うとその役柄になりきって生活することなんだけど、それと同じようなことを私もこのアルバムでやったの。真っ赤な口紅をつけたり、レコーディングではヴィンテージ・マイクを使ったりして曲の方向性に自分自身を合わせたのよ」。

 繰り返すが、彼女は〈あの時代〉に生きる自分をイメージして歌うことを心底楽しんだようだ。

「もう、クレイジーなくらい楽しかった! だってこういう音楽がいちばん好きなんだもの。心と魂を注ぎ込むことができたわ」。

 改めて書いておくと、〈あの時代〉とはつまり1920~40年代あたりのこと。彼女の言う〈こういう音楽〉とは、真の意味で音楽が人々を幸福にしていた時代のジャズやソウルやブルースのことだ。

「8歳の頃からそういうレコードをよく聴いていた。その頃のレコードをかけると、私の心は楽しくなるの。その感触を今作に採り入れたかったのよ。思わず歌い出したくなったり、踊り出したくなったりする、そういう音楽の原点に立ち返りたかったの!」。

 だから、『Back To Basics』! だが、もちろん彼女はその時代のそうした音楽をコピーしたかったわけじゃない。目的はそれをいまの音楽として甦らせ、ここで躍動的に鳴らすこと。そのため、本作では彼女自身が1からサウンド・プロデュースに携わり、みずからのヴィジョンを完璧に具現化させている。

「私は完璧主義なのよ。サウンド・プロダクションからミキシング、マスタリングまで、今回は1から10まで全部に関与したんだから。もちろん、このコンセプトに適した人材集めもね」。

 その人材の中でも目を引くのが、シングル曲“Ain't No Other Man”などを彼女と共にプロデュースしたDJプレミアだろう。

「ギャング・スターの曲を聴いて、彼なら私のやりたいことを理解してくれるだろうってピンときたの。昔のジャズの良さを損なわないようにしながらビートを切り刻んで、誰も聴いたことのないサウンドを作り上げていたからね。で、やってみたら思ったとおりだった! お互いの新しい面を引き出し合うことができたわ」。

 めくるめくサウンド絵巻と、楽しみながらもさらなる高みに到達した歌唱表現。しかも堂々の2枚組。クリスティーナ・アギレラ、恐るべし!

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掲載: 2006年08月10日 23:00

更新: 2006年08月24日 23:20

ソース: 『bounce』 278号(2006/7/25)

文/内本 順一