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インタビュー

Clap Your Hands Say Yeah

インディペンデントな活動を貫いて成功を手にした彼らから、既存のローファイ感を残しつつも、アヴァンでサイケな要素を加味したひねくれポップ作品が到着した!

曲を書くことはイノセント・アクトだね


写真/TEPPEI

  話しているとつくづく教養のある男だなあと溜息が出るし、だからこそこの音を生み出せたんだろうと素直に納得できる。単に〈ミュージシャン〉という枠で括るのは、アレック・オンスワース(ヴォーカル/ギター)という男の魅力を小さく定めすぎてしまうことになるのかもしれない。クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー(以下CYHSY)の中心人物であり頭脳であり、そしてソングライティングのすべてを手掛け、マイクの前に立てばガチョウの断末魔のような素敵ヴォイスを響かせる――そんなアレックが、またまたアメリカ本国ではレコード会社と契約せぬままリリースするセカンド・アルバム『Some Loud Thunder』について、まずはこう口を開いた。

「僕に言わせると、曲を書くことはあくまでイノセント・アクト(純粋な行為)だね。邪心のない行為というか。それは経験などに左右されない部分でもあるから、この先も変わらないと思う。ライヴ・パフォーマンスなどは経験がモノを言う場合もあるから、もちろんそれまでの自分の経験を参考にしていく方法もあるんだろうけど」(アレック:以下同)。

 今回のインタヴューで得た情報を踏まえて、この発言を解説しよう。【1】新作の収録曲はすべてファースト・アルバム『Clap Your Hands Say Yeah』をリリースする前に書かれたもので、現在の心境にはまったく関係がない。【2】〈イノセント・アクト〉として書かれた曲ばかりゆえ、曲については自分も意識下ではよくわからないので説明のしようがない。【3】曲とその制作者との関係が重要なのではなく、曲とそれを聴く対象との関係性によってすべてが決まるので、とにかくまずは聴いてほしい――他のミュージシャンにこんなことを言われたら、〈その崇高な理念が作品にはちゃんと反映されているの?〉と卓袱台をひっくり返して実家に帰らせていただきたい気分になるだろう。しかし、CYHSYの新作はなるほど、まごうことなき傑作だ。アレックのいささか難解な答えがストンと理解できるほどに、〈考える余地〉と〈感じる余地〉が見事に残されている。しかもアレックの場合は、まったりとした口調で過去の芸術家たちの名前、たとえばマチスの生前の評価のされ方などを例に挙げつつ話してくれるから、会話をしていて楽しいことこのうえない。

「人ってさ、何かにすごく興味を持ったり魅入られたりすると、〈あ、これは新しいことだ〉って思うよね。でもそのうちだんだん慣れてきちゃって、それがひとつの型になってゆく傾向がある。最近特に思うのは、僕に影響を与えたのは何か直接的なものというより、子どもの頃からの積み重ねなんじゃないかな、って。つまり、ある時は何かに極端に影響されるんだけど、それからフッとそのスイッチが切れて、また別のものに変わる──その繰り返しで、モノの見方や考え方が培われていくんだよね。音楽だってそう。ラフマニノフやらニール・ヤングやらビリー・ホリデイやら、僕自身とにかくいろいろ聴いてきたしね。今回日本に来る飛行機では、テツ・イノウエっていう日本人の曲をずっと聴いてたよ」。

 そうやって、彼の中で長年かけて沈殿されていった文化的な感動が、出口を見つけて無意識のまま形になったのが、〈曲〉だとしよう。この最新作で何より重要なのは、それを録音した時期と場所なのだとアレックは自己分析する。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年02月01日 20:00

ソース: 『bounce』 283号(2006/12/25)

文/妹沢 奈美