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インタビュー

THA BLUE HERB

もう幻想は要らない。研ぎ澄まされた言葉と力強く響くビートは、人それぞれの物語に寄り添う。生きるということは闘いだ──闘いに命を懸けるのは当然だろう!!

伝わらなきゃ意味がない


  「(デビュー当初のメッセージは)同業者たちにしか、向けてなかった。リスナーはまだ存在していなかった。でもやっぱり、ライヴでいろんな街にいって、いろんなリスナーが僕らを迎えてくれる以上、その人たちが共感できることを歌わないと駄目でしょう、と。いつまでも、自分を大きく見せるようなことばかり言っていても……まあ、それはそれで〈カッコイイな、この人〉って思われることにはなるかもしれないけど、それだけでは、ライヴの最後まではもたない。やっぱり、その人の感情とリンクしないと意味がないし。そういうふうな考え方に変わってきた」(ILL-BOSSTINO、MC)。

 THA BLUE HERBが登場してから2007年で約10年を数える。これまで2枚のオリジナル・アルバムと4枚のCDシングル、10枚のアナログ・シングルで彼らが提示してきたのは〈札幌と東京〉〈アンダーグラウンドとアマチュア〉など……彼らなりのゲームのやり方で〈天下を二分〉し、日本のヒップホップ・マーケットに揺さぶりをかけ、自分たち流の勝ち上がりを具現化するということだった。そしてそのシナリオは、2002年の『SELL OUR SOUL』でひとつの到達点を迎えたのかもしれない。だが、それから5年の間、〈空白〉は感じられなかったはずだ。ILL-BOSSTINOにとってはフランソワKをマスタリングに迎えたHERBEST MOONや、CalmとのJAPANESE SYNCHRO SYSTEMがあり、一方でトラックメイカーのO.N.Oはソロ・アルバムや映画「HEAT-灼熱-」のサントラを手掛け、第3のメンバーであるDJ DYEを正式に迎えての幾多のツアー──それぞれのプロジェクトが充実した成果を出してきたからだ。そこで登場したのが、先行シングル“PHASE 3”を挿んでのニュー・アルバム『LIFE STORY』。本作に対しては、ふたつの興味が沸く。〈時代は変わる〉と歌った彼らがその後の〈時代〉に何を歌うのか? 常にそのトラックを進化させてきたO.N.Oのサウンドがどのような境地に辿り着いたのか?

「3枚目のアルバム、今回は三度目の正直って俺は思っているんだ。本当に、駆け引きなしで、本当に思ったとおり素直に歌うっていう感じで。日常、人と人の間に起こるような、見過ごされがちな、流されちゃいそうなこと、小さなエピソードにドラマを見い出す。そういうようなことに価値がある、そういうことを歌っていきたくなってきた」(ILL-BOSSTINO)。

「どこかからフレーズを取ってくるような、いわゆるサンプリング(ネタ)を使った作り方はしてないんだよね。ただ、一音一音作って、メロディーも自分で弾いて、それをどんどんコラージュして作っていくやり方が、BOSSとシンクロするのにもいちばん相応しかった」(O.N.O)。

 アルバムの冒頭を飾る“THE ALERT”は、ヒップホップ・マナーに則って彼らの帰還を高らかに宣言するトラックだ。同曲で始まるタフな前半戦……それはやがて中盤の“ON THE CORNER”を転機に、静かに、メロディアスな展開を見せていく。全体を構成するサウンドは、新訳版“智慧の輪”以降に顕著になったO.N.Oの〈空間処理の実験〉をさらに高度化したものだ。結果としてその言葉は広く〈市井の人〉に向けられ、そのサウンドは今日性を帯びた、鋭くもドラマティックなものとなった。つまりは〈開かれたアルバム〉──中盤に登場する“SUCH A GOOD FEELING”にはそれを象徴するような中納良恵(EGO-WRAPPIN')の吐息が刻まれている。

「もう、ずっと作り続けているから。音楽を作るのに昔みたいに〈奇跡〉とか〈偶然〉とかでは作ってないんだ。それでもどこかで化学反応が欲しいと思った。あと、世の中は男だけで成り立っているわけじゃなく、やっぱり対極として女の人もいてこその調和だし、リリックの内容を見てもそこに女性のフィーリングが入るのは必然であって。そうなったら自然と良恵ちゃんしかいねえなって」(ILL-BOSSTINO)。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年05月31日 12:00

更新: 2007年05月31日 17:21

ソース: 『bounce』 287号(2007/5/25)

文/リョウ 原田