インタビュー

THA BLUE HERB(2)

俺にとってのモチヴェーションは……

 アルバムの最後に控えるトラックの名は“MOTIVATION”。MCとしての初期衝動にふたたび火を点けるような終局、終わりはまた始まりへ繋がっていく、という仕掛けだ。ここではILL-BOSSTINOがMCとして、〈若きライヴァル〉へ、活き活きと、鋭い言葉を投げかける。〈次々現れる/YOUNG MC/すげえ奴にはすげえって言う/たった一人/新宿まで出かけ/通す筋/陰口使わねえのが北の流儀〉──思わず尋ねてしまう。“MOTIVATION”を作らせるモチヴェーションは何だったのか?

「業界の景気のことは知らんけど、いまは僕らが昔東京へ出てきた頃のような停滞したムードっていうのはなくてね。若い人たちがMCとしてたくさん出てきて、熱いものは凄く感じていたし。それに対して僕はリスペクトしている。若い人たちのエネルギーを受けて、俺自身が前向きになれたっていう部分も大きいんだ。それもMCとしてのモチヴェーションのひとつではある。だけど、それもひとつでしかないというか。俺にとってのモチヴェーションは、自分の家族であったり、自分の人生の発展だったり。そこが凄くあると思うよ」(ILL-BOSSTINO)。

〈THA BLUE HERBを聴く〉という行為の醍醐味はILL-BOSSTINOの言葉を貪ることだという人もいるかもしれない。しかしながら、その真価はO.N.Oの野心的なトラック(その進化は別項で!)と調和し、DJ DYEのスクラッチと融合する瞬間にこそあると言えるだろう。

「良い音楽は山ほどあって、そういう音楽を聴いて〈いやー、本当に凄いなあ〉と思うことは多々ある。超一流のミュージシャンもたくさん知っている。けれども、THA BLUE HERBの制作にあたっては、そういう人たちのことを考えることすらない。THA BLUE HERBっていうのは僕らと僕らのオーディエンスの歴史であって、他者との比較じゃねえっていうか。もちろん出た後はいろいろ比較されますよ。でも作っている時は、せいぜい比べるとしたら自分たちの前作ぐらいなもので。凄く静かな心境で、良い曲を粛々と作っていくというか」(ILL-BOSSTINO)。

 確かに良い音楽は世界中の古今、未来にも山ほどあって、私たちは一生の間にそれをどれだけ体験できるのかわからない。時間的制約から考えるに、がんばっても200万曲足らずを浴びて、そのうち一生を共に歩むのは2、3千曲に満たないだろう。ただ、2007年に日本語圏に生き、隔てなく音楽を聴くという姿勢を持った貴方には、THA BLUE HERBの『LIFE STORY』を聴いてもらいたい。その言葉とサウンドは、他ならぬ貴方に向けられているのだから。

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掲載: 2007年05月31日 12:00

更新: 2007年05月31日 17:21

ソース: 『bounce』 287号(2007/5/25)

文/リョウ 原田