インタビュー

Devendra Banhart(2)

目が覚めた状態で見る夢

 今作には盟友のアンディ・キャビック(ヴェティヴァー)やクリス・ロビンソン(ブラック・クロウズ)らに加えて、過去にも何度か共演しているシンガー・ソングライターのヴァシュティ・バニアンが参加。しかしとりわけ異彩を放つのが、ヴァシュティと並ぶ伝説のシンガー、リンダ・パーハックスと俳優のガエル・ガルシア・ベルナルだ。この両者が同じアルバムで顔を揃えるなんて、デヴェンドラの作品以外にはありえない。

「リンダはとてもスペシャルな人。彼女とは2年前に知り合ったんだけど、それ以来、僕らの家を訪ねてくれるようになった。哲学、カルト、ニューエイジ、水晶のコレクション……いろんなことを話しているうちに、最後はいつも音楽の話題になるんだ。僕がアルバム用に作った“Freely”を、ある日彼女はリミキシングしはじめて、新しい歌詞で歌ってくれた。とてもエキサイティングだったね! ガエルとは長い付き合いで、彼の映画のために曲を依頼されたのが知り合うきっかけだった。今回は〈アカデミー賞〉でこっちに来ている時に、スタジオに寄って歌ってくれたんだよ!」。

 そんなユニークな人脈も手伝って、今作には混沌としたエネルギーが渦巻いている。弾き語りからバンドまでセットもさまざまなら、サウンドもブルースからトロピカリズモまでを呑み込んで、濃密なデヴェンドラ宇宙を広げていく。その曲調の豊かさに、ただただ驚かされるばかりだ。

「曲を作る時は最初からなにか考えがあるわけじゃない。不思議な瞑想ゾーンに入り込み、それが終わるまでは止めないんだよ。そのうちに奇妙なことが起こるってわけ。とにかくどんどん仕事を続けていって、〈この曲はほぼ完成した〉と思うところでストップさせるんだ。そうすることで小さなスペースを残しておける。曲自体の自発的な広がりのためだよ」。

 なにより印象的で魅力的なのが、デヴェンドラのヴォーカルだ。彼が敬愛するカエターノ・ヴェローゾのように甘く、ヴァシュティのように儚げ。そこからこぼれ落ちる歌は、まるで夢の中で鳴っているのに朝日と共に消えてしまうメロディーみたいだ。

「それはとても素敵な例えだね! いままで聞いたなかでいちばん美しい例えだ。僕は眠っているときの夢からインスパイアされることはないけれど、目が覚めた状態で見る夢、つまり白昼夢を見るから、そこからインスパイアされることはあるかもしれない。でも君の言ったことはとても素敵だね。朝の太陽はゴングであり、大きなベルなんだから!」。

〈フリー・フォーク〉が〈歌〉と〈音響〉の関係を新たに見直すムーヴメントだとしたら、今作はその見事な集大成といえるだろう。世界や内なる自分に向けてよりいっそう解放されたデヴェンドラ・バンハートのサウンドは、音楽が普遍的な力とマジックを持っていることに改めて気付かせてくれる。『Smokey Rolls Down Thunder Canyon』──このアルバムはそんな魔術師が生み出した壮麗な白昼夢なのだ。

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掲載: 2007年11月08日 18:00

ソース: 『bounce』 292号(2007/10/25)

文/村尾 泰郎