インタビュー

Alicia Keys

歴史を塗り替えてきた勇敢な才女がまたしても奇跡を起こした。確信に満ちた歌声は高らかに響き渡る──あるがままに、ありのままに、アリシア・キーズのままに

もう誰も邪魔できないわよ!


 アリシア・キーズが4年ぶりとなるスタジオ録音のニュー・アルバム『As I Am』を完成させた。もっとも4年ぶりとはいえ、その間にはMTVの名物番組を復活させてのライヴ盤『Unplugged』(2005年)も発表したし、アッシャーとの“My Boo”や故ルーサー・ヴァンドロスのトリビュート盤への参加、さらに映画出演など、アリシアが人前から消えてしまうようなことはなかった。そんな相変わらずの多忙のなか、彼女はエジプト旅行にも行っていたそうで、昨年10月から制作に取り掛かったという今回の新作には、その旅での体験が大きく反映されたのだという。

「旅から帰ってきて、とにかく自由に音楽を作りたかった。(音楽パートナーの)ケリー“クルーシャル”ブラザーズとも話したんだけど、方向性とかをひとつに決めないで自由にやろうって。例えばエジプトの伝統的な音楽をかけたりしながら、新しい方法論を探ったりとかね。エジプトには長い歴史のある、息を呑むような素晴らしい建造物がいっぱいあって、それが全部人間の手作りだということを知って……だったら私にだって何でもできる!と思った。パワーをもらったのよ。もう誰も私のことを邪魔できないわよ!って気分になったの」。

 かつて初来日した時も日本情緒溢れる京都の風景にいたく感激していたアリシア。エイズの子供たちを救う慈善団体の運営(この絡みでボノとのデュエット曲“Don't Give Up”を配信のみで発表)も含めて、アリシアの場合、そうした体験がハッタリではなくキチンと滋養となって作品に反映されていると感じるのは気のせいだろうか。ヴィンテージものの名物アナログ・シンセ〈ジュピター〉を初めて使ったという先行曲“No One”(共同プロデューサーにDJのダーティ・ハリーを起用)にしても、内省的だけどグローバルな拡がりがあると言うか、解放感がある。それはNYのロングアイランドに新しく構えた自分のスタジオで録音したことも影響しているようだ。

「ホント、凄く心地良くて! 念願だったスタジオを作って、やっと夢に描いていたことが実現したのよ」。

 今回の新作について、大方のメディアは〈ロックっぽくなった〉と評している。確かに全体的にエッジの立った感じはあって、本人も今作を「ジャニス・ジョプリンmeetsアレサ・フランクリン。それと少し2パック」と表現しており、少なからず〈ロック的なるもの〉に意識的になった模様。そのことは共同制作者にリンダ・ペリーやジョン・メイヤーを迎えていることからも判断できるかもしれない。だが、最大の変化は彼女の歌声がこれまで以上に力強く逞しくなったことではないだろうか。

「ええ。自由な環境で曲作りをしたという以上に、今回はとてもアグレッシヴで、反逆的というか、怒りみたいなものすら感じさせるようなアプローチになった。そうやって音を作っていくと、私の歌声も自然に力強くなっていったの。歌うってことの必要性も、どんどん強まってきているし」。

 反逆的とは……まるでアリシア自身が映画デビュー作の「スモーキン・エース」で演じた掟破りの女暗殺者のようだ。冷然と銃口を突きつけるあの姿は、彼女の優等生的なイメージとのギャップが痛快だった。

「自分と違うキャラクターを演じることで、逆に自分とどういう共通点があるかということを探ることができた。自分がどんなものを秘めているかがわかったの。それが今回、音楽を作るうえで大きな影響になったことは確かね」。

 アルバム・タイトルが『As I Am』となったのも、その〈自己発見〉と無関係ではないようだ。

「まさに〈ありのままの私〉を受け入れてほしいという意味。素顔の私を、ね。それに、ここ数年間に体験してきたことを心地良く感じ、自分がいろいろな違った方向性を秘めているんだってことを伝えたかったのよ」。

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掲載: 2007年12月13日 21:00

ソース: 『bounce』 293号(2007/11/25)

文/林 剛