インタビュー

Alicia Keys(2)

私は真実を歌っている

 そのことは顔を大写しにしたアルバム・ジャケットも物語っているかもしれない。そして、制作陣にもアリシアの個性をキープしながら彼女が持つ違った方向性を引き出せる人材を起用し、自分の潜在能力を追求したようだ。とりわけ、2004年にネオ・ファンクな傑作『The Return Of Jack Splash』を出したプラント・ライフのジャック・スプラッシュ、またインディア・アリーなどを手掛けるマーク・バトソン(元ゲット・セットVOP)とのソウルフルなコラボレートには、アリシアとの相性の良さが窺える。

「ジャック・スプラッシュとは“Teenage Love Affair”なんかを作ったけど、私のように古臭い音を新しくして聴かせるって感じの人よね(同曲ではテンプリーズのスタックス名曲“(Girl)I Love You”を巧みにサンプリング)。それにマーク・バトソンは私ととてもよく似ていて、まるで〈男性版アリシア・キーズ〉って感じなのよ」。

 もちろんリンダ・ペリーの仕事も素晴らしい。例えば“Sure Looks Good To Me”は、スティーヴィー・ワンダーとパール・ジャムを合わせたような既聴感バリバリの、実に〈古臭いけど新しい〉狙いすましたような曲だ。

「あ~、それはいい表現ねえ。〈リメイクなんですか?〉ってよく訊かれるんだけど、私にとってそれは凄い褒め言葉だと思っているの。そういうふうに言われるのは、聴き手のソウルに働きかけたって証拠だと思うから」。

 もはや消すことのできない、アリシアが持つソウルの血。「マジックのように曲が舞い降りてきた」という“Like You'll Never See Me Again”でのゴスペル・フレイヴァーも、自然と身体から湧き上がってきたような感じが美しい。

「ゴスペルっぽく聴こえるのは、私が真実を歌っているからでもあると思う。何せ今回のアルバムは、すべてを解放して歌って演奏しているんだから。この先もミュージシャンとしてもっともっと上達していくはずだけど、いまはこの新作がこれまでのベストだと考えているわ」。

 揺るぎない個を貫きながら、それを多方向へと伸ばしていくNYのピアノマン。アルバム・ジャケットが似ているからじゃないが、実にビリー・ジョエルがそうであったように、今後は素顔のままで最上級のポップソングを歌う存在になっていくのではないか。『As I Am』は、そうした思いを強く抱かせてくれる、意欲的で挑戦的なアルバムだ。

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掲載: 2007年12月13日 21:00

ソース: 『bounce』 293号(2007/11/25)

文/林 剛