インタビュー

Wyclef Jean(2)

これがオレだ、と言えるアルバム

  けれど続編とはいえ、10年分の見聞を活かしたスケールアップぶりには圧倒されずにいられない。『The Carnival』は彼のルーツであるカリブ音楽に根差していたが、今回はヒップホップ~レゲエ~ロックを軸にしつつ、中東やインドのフレイヴァーからテハーノ音楽やソカに至るまで恐ろしく雑多な様式を導入しており、コラボ相手も前作以上に人種/国籍/ジャンルを縦断。シズラにエイコン、ポール・サイモンにノラ・ジョーンズ、メアリーJ・ブライジにウィル・アイ・アム、はたまたシステム・オブ・ア・ダウンのサージ・タンキアン、ボリウッド映画音楽家のアデッシュ・シュリヴァスタヴァ、そしてT.I.やリル・ウェインといったMC勢……。

「それでいて、ちゃんと流れがあるっていう点に注目してもらいたいね。オレのアルバムは散漫だと批判されることが多いから、まとまりのあるアルバムってのに挑戦したんだ。相変わらず折衷的だけど、理に適ったキャスティングを意識して、できることをあれこれひけらかすんじゃなく焦点を定めて、〈これがオレだ〉と言えるようにね。歌モノに専念したのもそのせいだよ」。

そう、本作の大きな特徴は歌モノ中心に構成されていること。アコギの響きと人懐っこいメロディーに乗せて、USの都市からハイチやイラクまで世界を包むヴァイオレンスを憂う曲の数々は、〈ワン・ラヴ〉のメッセージをクリフらしい飄々とした語り口で発信。その目線はいまも、貧しい移民の子供という自分の出自を忘れず、常に弱者に向けられている。彼は「ラップしたくないわけじゃないんだ」と前置きしてから、意図を説明する。

「何枚かラップ中心のアルバムも作ったけど、その後“If I Was President”を書いた時は反応が違ったんだよね(注:前作『Welcome To Haiti Creole 101』に収録の、米政権批判を含むヴォーカル曲。USの人気トーク番組で初披露して大きな反響を呼んだ)。人々はこういう曲をオレに求めているんだと気付いて、若い世代と接点を築けたように感じたのさ。だからソングライティングをもっと極めたいと思った。冒頭の曲ではラップしてオレの原点の所在を知らせて、あとはほぼ歌に徹したんだよ」。

もちろんいまは、複数のジャンルを網羅することなど珍しくない時代だ。それでも本作ほど冒険的な作品を探すのは極めて困難だろう。ある意味リスナーのオープンマインドさを試す挑戦的なアルバムではあるのだが、そこは稀代のヒットメイカー、完全にポップ・アルバムとして成立している点も驚きに値する。ここにきてやっとフージーズの呪縛から解かれたワイクリフ・ジョン、デビューから15年を経ていよいよ真価があきらかになってきた。

▼『Carnival Vol. II Memoirs Of Immigrant』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

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掲載: 2008年01月17日 18:00

ソース: 『bounce』 294号(2007/12/25)

文/新谷 洋子