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インタビュー

The Mars Volta(2)

スポンティニアスでライヴな音

 そろそろ『The Bedlam In Goliath』の話をしよう。「曲自体は1年以上前に書けていて、準備は万端だった」という同作だが、その後の制作過程で多くの不可解な出来事が起こり、完成までに長い時間を費やすこととなった。まずその〈不可解な出来事〉の原因について説明しておくと、前作『Ampu-techture』のマスタリングを終えた翌日、オマーは直感的に行く必要を感じてエルサレムへと旅立ち、その際に訪れた小さな骨董屋であるものを手に入れたという。それはウィージャ(日本でいう〈コックリさん〉のようなもの)で用いるためのトーキング・ボード(亡くなった人の霊とコンタクトを取ることができるように作られたもの)だ。オマーはそれをセドリック・ビクスラー・サヴァラ(ヴォーカル)へのプレゼントと考えていたらしいが、このボードを手に入れてからエンジニアは病気のために離脱し、スタジオが2度も浸水してデータが消え、録音済みのトラックまでもが消失。他にも説明のつかないことが次々と起こったという。

「当時は本当に落ち込んだよ。何なんだろうね(苦笑)。自分でもよくわからないし、いまとなっては説明するのも難しい。というのも、いまは当時とすっかり気持ちが変わってしまっていて、遠いことのように思えるから」。

 そのボードによってアルバムの完成は遠のいた。だが、同時にボードがもたらすメッセージは今作の歌詞になり、不可解な体験は作品全体の雰囲気に影響を与えたとも話す。では、なぜ彼が一連の非科学的で超自然的な現象を受け入れるようになったのだろうか?

「僕はカリブ出身でセドリックはメキシコの血を引いているから、僕らのカルチャーを考えればメタフィジカルな要素はごく普通のものなんだ。子供の頃は訪ねてくる霊たちに名前を付けて供え物をしたり、祭壇を作って花を供えたりしていたしね。非科学的なものを認めない人がいるのも、別にいいと思う。ファンタジーで終わらせたければそれでもいいさ。そうやってさまざまな考え方があるから世界はおもしろいんだし、現実の捉え方は人それぞれ違うから」。

 今作におけるサウンド面での変化に目を向けてみよう。これまではループに展開を散りばめて緻密に作り込まれた曲が多く、1曲の長さも長尺のものが多かった。しかし本作は全12曲40分弱で、すべての曲が短い。これは彼らにとって新たな試みである。加えて、曲調もよりアグレッシヴでライヴ感に溢れたものになった印象を受けるのだが。

「それはグレイトだね。ただ、実はこのアルバムのほうが前作以上に緻密に作り上げられているんだ。今回はより根を詰めてディテールにも凝った。でも完成品は決してそういう音に聴こえてほしくなかったし、そう聴こえたら失敗したことになると思ってた。今回のレコードでめざしたのは、スポンティニアスでライヴな音だった。そう聴こえてくれたのなら、僕は仕事をまっとうしたことになるよね(笑)」。

 そしてもうひとつ、大きな変化がある。それは今作から22歳のドラマー、トーマス・プリジェンを新たに迎えていること。彼の加入によってバンドはさらなるグルーヴ感を手に入れた。また、バンド内の雰囲気もこれまででもっとも良好になったという。

「トーマスは俺たちの音楽を最高だと思ってくれている。〈これをプレイしろ〉とこっちから言うと、〈OK!〉とふたつ返事で応じてくるだけじゃなく、〈こうしたらどう?〉と提案までしてくるんだ。トーマスはエネルギーと若さの泉だね」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年02月14日 19:00

ソース: 『bounce』 295号(2008/1/25)

文/池田 義昭