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インタビュー

Snoop Dogg(2)

エゴの壁を崩壊させた

 さて、そんな『Ego Trippin'』で最大のトピックと言えば、スヌープにDJクイック、テディ・ライリーで結成され、本作のトータル・プロデューサー的な役割を果たしたユニット、QDTが挙げられる。そういえば本作からの先行カットとして大ヒットを記録している“Sexual Eruption”ではトークボックスを用いてラップし、プロモ・クリップにてロジャー・トラウトマンの如くチューブを咥える姿も話題となっているが、トークボックス・プレイヤーとしても知られるクイックとテディをアルバムに招くというストーリーは、最初からスヌープの頭にあったことなのだろう。そのテディが手掛けたタイムのカヴァー“Cool”をはじめ、今作には地域/クルー/スタイルに関係なくホットなトラックメイカー(ポロウ・ダ・ドン、リック・ロック、ケイオ、ネプチューンズ、ラファエル・サディークなど)が招かれ、内容やサウンドは非常に雑多になっている。

「このアルバムで俺は他人に曲作りを委ねられるようになったけど、いままでなら俺のエゴがそうさせないよ。いつもの俺はエゴが強すぎるからね。しかし今回はエゴの壁をあえて崩壊させて、いろんな人に作曲してもらった。だから、俺の言う〈自己陶酔〉ってのはネガティヴな意味じゃなくて、まったくポジティヴなものなんだ」。

 そんなポジティヴな〈自己陶酔〉の究極形とも言えるのがホワイティ・フォードことエヴァーラスト(元ハウス・オブ・ペイン)が手掛けた“My Medicine”だ。ここでスヌープが聴かせてくれるのは……カ、カントリー!?

「エヴァーラストは俺がジョニー・キャッシュのファンだってことを知ってたし、いっしょにスタジオ入りした時にもジョニーみたいな曲を作ってみたかったと伝えた。ただの真似じゃなくて、ジョニーから感化された音っていう意味でね。ラップもカントリーも、抑圧を超えて自分の声を聴いてもらうよう求めてる音楽だろ? 自分たちのフィーリングをメロディーに乗せて表現する。カントリー・ミュージシャンとラッパーが経験する〈苦闘〉は似ているんだ。どちらも〈苦闘〉のストーリーさ」。

 こうしてヒップホップを真の意味でネクスト・レヴェルへと上げようと試み、ヒップホップの可能性へ果敢にトライしようとするスヌープのような存在がある限り、ヒップホップ・ゲームは終わることはないし、そのゲームの醍醐味も尽きることがないだろう。

「現在のラップ・ミュージックの状況は素晴らしいポジションにあると思ってる。だって、どんなTV番組を観たって、どんなCMを観たって、もうヒップホップの影響をモロに受けてるだろ? 俺にとっては世界でNo.1の音楽なんだ。映画に関しても、NFLの〈スーパーボウル〉も、MLBのワールド・シリーズも、テニスでもゴルフでも、常にどこかでヒップホップから大きな影響を与えられてる。どんなホイールであろうと、ラップなしじゃドライヴできないのさ」。

▼『Ego Trippin'』に参加したプロデューサーの作品を一部紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年04月03日 17:00

ソース: 『bounce』 297号(2008/3/25)

文/升本 徹