DE DE MOUSE(3)
聴かせたいのはメロディー
郊外の団地だったり、裏山だったり……まるで中世の交響曲作家に倣うかのように、彼は音楽の背後に景色を思い描いている。宮沢賢治「銀河鉄道の夜」をモチーフに、主人公に少年を想定した前作『tide of stars』は、やんちゃなカットアップ・ビートの断片に、エレポップ的なメロディーが重ねられた作品だった。それに対してニュー・アルバムの『sunset girls』は、少女を主人公にした架空の物語がベースにあるという。夕暮れ時から夜にかけて、少女が少年と出会うまでの物語。新しい物語では、音像の中心にはソフト・シンセのメロディーが据えられる。
「セカンド・アルバムはファーストへの反抗という意味で作っている。確実に比較されるじゃないですか。だったら、自分のやりたいことをやろう、っていうので作りはじめた。前のイメージが宇宙だったから、〈次は空だな〉って。みんなが反応するのはビートだったけど、自分が凄く聴かせたいのはメロディー。『tide of stars』で自分の音楽に対する耳ができたから、このリズムを少し引っ込めてもついてきてくれるだろうって。あとは、80年代のオリエンタルな感じの音ってフュージョンからきてるなって思いついて、今回はフュージョン的なものを意識して。非整数倍音の音はわりと多く使ってますね、チャイムやガムランやマリンバのような、アジアっぽい感じ」。
昨夏にEPでリリースされていた“east end girl”の別ヴァージョンに始まり、ワルツと祭囃子の中間を行くような“hill girl steps”や“sunset slope”、ビート感のある前作での手法を継承した“swallowtail bridge”、映画のエンドロールを思い起こさせるような終局の“blue & green waves”まで。シミュレートされたチャイムやフルートの音色が散りばめられ、〈胸キュン〉な少女性が広がる10曲の物語。エピローグとして、大沢伸一とアイ・アム・ロボット・アンド・プラウドそれぞれのリミックスも収録されている。決してアカデミックな狂気はないし、マッチョなビート感もないけれど、極めて日本的でセンティメンタルなDE DE MOUSEのセンスが爆発したアルバムだと言えるだろう。
「このアルバムを作っているとき、僕が凄く待ちわびていたものがあって。それは台風。以前、台風が昼間に通り過ぎて、窓を開けたら外の景色が一面ピンク色になっていた。何だこりゃ、と思って近くの川にいったら増水していて、公園が半分水で埋まっていて。空には星が見えるのに、夕暮れのほうを眺めるとメチャクチャな感じになっていて。その時のことが忘れられなくって、もう一度それを体験したかった」。
DE DE MOUSEのメロディーは、あなたの情景をどう変調させるのか? 夕暮れ時に、ぜひ確かめてみてください。
▼『sunset girls』に参加したリミキサーの作品。
アイ・アム・ロボット・アンド・プラウドの2006年作『Electricity In Your House Wants To Sing』(Darla)