FLYING LOTUS(2)
J・ディラと比べるのはアンフェアだ
その『Reset』で、スティーヴンは故J・ディラの〈次〉を担う存在として一躍期待を集めるようになるが、そういう見解に対する彼の見解はこうだ。
「ディラと比較されるのは光栄だし、影響を受けていないと言ったら嘘になるね。ただ、俺は独自のサウンドを独自に発展させているつもりだから、ある意味ではアンフェアにも感じるんだ。まあ、他と比較されることで自分のクリエイティヴなプロセスを乗っ取られないことが大事だと思ってる。自分の音が発展していくに従って、皆に〈この音はフライング・ロータスっぽいな〉って言ってもらえたらいいね」。
そして、十分に期待を高めたうえで登場する2年ぶりのフル・アルバムこそが『Los Angeles』だ。フィニッシュまでに1年半近くかけたというこのオーガニックでドープな大作は、映画学校出身のスティーヴンらしいコンセプチュアルな内容になった。
「LAを題材にしたフューチャリスティックなSF映画のサントラみたいなものを作りたかったんだよ。それが上手く伝わるといいな。タイトルはLAの街そのものだけじゃなく、そこに住む人々や、そこで起こる良いことや悪いこと、クレイジーな部分も表現している。最初のアイデアは〈サイケデリック・レコードを作ろう〉というもので、それから〈いや、ダークで荒涼としたアルバムにしたい!〉と思って、行き着いたのがこの内容だった、ってわけさ。制作の過程で音楽自体がその方向性を決定していくものなんだよね」。
ゴンジャスフィやドリー、前作にも参加していたローラ・ダーリントンの印象的な歌声が聴ける曲もあるが、大半は聴く者のイマジネーションを刺激する表題のついたインストだ。アリス・コルトレーンのハープをフィーチャーした“Auntie's Harp”やLAのギャング・バンギンを意味すると思しき“GNG BNG”、さらには“RobertaFlack”“SexSlaveShip”などもいちいち興味深い。
「たいていは曲を作っているときにタイトルが浮かぶんだけど、そのトラックが自分にどんな感情をもたらすかが反映されているんだ。“SexSlaveShip”のタイトルの由来? なぜ言わなきゃいけないんだ(笑)」。
ところで、過去に“Tea-Leaf Dancers”を披露し、別ユニットのフライアムサムでは“Green Tea Power”も発表している彼だが、何かお茶にこだわりでもあるのか?
「そうそう、俺は緑茶を飲まなきゃいけないんだ(笑)。いや~、訊かれるまで、自分がお茶に魅力を感じているなんてまったく気付かなかったよ! 次こそはアールグレイについての曲を入れなきゃね(笑)」。
今後はブリアルと組む予定もあり、ポーティスヘッドやレディオヘッドとのコラボが目標だという彼。フライング・ロータスという宇宙の新たな振動は、これからもこの世に降り注ぐことだろう。
▼フライング・ロータスの作品。
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