インタビュー

J・ディラの魔法は解けない

 もちろんサウンドそのものの格好良さを前提としての話だが、フライング・ロータスの台頭を後押しした要因のひとつに、〈J・ディラ以降〉のサウンドを求めるビート・ジャンキーたちの支持があったことは疑いないだろう。もっと踏み込んで言えば、多くのリスナーたちの意識の奥底には〈ディラの代わり〉を探すことで喪失感を埋めようという思いがあるのかもしれない。一方で、アーティスト内での人気も高かったディラだけに、そのサウンドを超えんとする者や憧れをそのまま形にした者、あるいはトリビュートやオマージュのような形で〈ディライズム〉を継承/意識したような作品も定期的に届けられている。昨年はサモン・カワムラやロバート・グラスパー、ワジード、SUPER SMOKEY SOULといった面々の作品が話題になることが多かったが、ここではディラの魔法がより幅広いフィールドに影響を及ぼしている様子を紹介してみよう。敬意の表れ方はさまざまながら、いずれもそこに故人の存在を感じずにはいられない逸品である。


J・ディラの2006年作『The Shining』(BBE)

『Beat Dimensions Vol. 1』 Kindred Spirits(2007)
ポスト・ディラ的なサウンドを探求するうえで、向こう数年の世界基準となっていくであろう優良コンピ。世界各地の俊英と並んで、フライング・ロータスの別ユニット=フライアムサムの“Green Tea Power”も収録されている。

『4Hero...Mixing』 Sonar Kollektiv(2008)
ディーゴが黒いセンスを発揮したミックスCD。ディラを迎えたダブリーの“Game Over”からディラの“Over The Breaks”へ……という序盤のみならず、サー・ラーなどを経てワジードで締める全体の流れそのものがトリビュート企画のよう!

COMMON 『Finding Forever』 Getting Out Our Dreams/Geffen(2007)
カニエと組む前も後も常にディラと絶妙なマッチングを見せてきたコモンだけに、本作にも生前最後のコラボ“So Far To Go”を再収録。カニエがディラのヴァイブを意識してミックスした後半の展開も胸に迫る。

ERYKAH BADU 『New Amerykah Part One (4th World War)』 Motown(2008)
『Mama's Gun』でソウルクエリアンズ時代のディラと宇宙を見たエリカ様。サー・ラーやマッドリブらポスト・ディラ系のLA勢を抜擢した今作には、故人に捧げた“Telephone”も収録されている。

ERIC LEGNINI TRIO 『Big Boogaloo』 Label Bleu(2006)
ベルギーで活躍するジャズ・ピアニストのトリオ作。ソウルフルなトーンが通底した本作では、ロバート・グラスパー“J Dillalude”よりも早かった追悼曲“Funky Dilla”が聴ける。プレイヤーから評価が高いのもディラならでは。

LETTUCE 『Rage!』 Velour(2008)
ジャズ・ファンク界のスーパー・ユニットによる久々のアルバム。ディラの本名を冠した“Mr. Yancey”は、あのソリッドなクラップを彷彿とさせるアダム・ダイチのタイトなドラミングが心地良い、穏やかなオマージュに仕上がっている。

ERIC LAU 『New Territories』 Ubiquity(2008)
ドゥウェレあたりを経由してディラのコズミックな浮遊感に辿り着いた、UKのクリエイターによる歌モノ主体の初作。ディラのフックアップで登場したギルティ・シンプソンとのコラボ経験もあり、早くも後継者の資格は十分だと言えよう。

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掲載: 2008年06月05日 17:00

更新: 2008年06月05日 18:00

ソース: 『bounce』 299号(2008/5/25)

文/出嶌 孝次