インタビュー

Estelle(2)

ローリンのフォロワーじゃない

 こうしてジョンからの提案も仰ぎつつ、ウィル・アイ・アム、ワイクリフ・ジョン、マーク・ロンソン、スウィズ・ビーツ、ジャック・スプラッシュらを起用して作り上げたのが、US進出作となるニュー・アルバム『Shine』だ。特にカニエ・ウェストが客演したウィル・アイ・アム制作のリード曲“American Boy”(ウィルのソロ曲“Impatient”の歌ヴァージョン的な作り)は、UKの女子であるエステルがセクシーな〈アメリカの男の子〉について歌うという、曲のテーマ的にもUS進出を意識させる感じで興味深い。しかも、歌とラップを使い分けるスタイルに加え、ワイクリフが手掛けた“No Substitute Love”なんかはローリン・ヒルそっくりとくる。前作ではローリンの愛称だった〈L・ブギー〉よろしく〈E・ブギー〉なる名前で楽曲制作もしていたので、ローリンへの憧れは大きいのだろう……と思えば、意外やこれに関しては「オー、ヘル・ノー!!」と完全否定。「新作でいちばん印象に残っているのはワイクリフ。スタジオでいっしょに腕立て伏せまでしたんだから!」と答えながらも、こう本心を明かした。

「ワイクリフに関して言えば、ホントはやりたくなかったのよ。みんな〈ローリンがどうこう〉って言うから。でも良い音楽を拒むことはできないしね。〈E・ブギー〉は私のニックネームなんだけど、ただの偶然。だからローリンのフォロワーじゃないわ。どちらかといえばメアリー(J・ブライジ)のほうが共感が持てる。彼女も音程とかそういうことを気にせずに魂で歌うタイプじゃない?」。

 UK出身者だと、同じく2枚目のアルバムでUS進出を果たしたエイミー・ワインハウスとも比べられるエステル。新作でもシー・ローと歌った“Pretty Please(Love Me)”がモータウンっぽい曲調だったり、サンプリングなどでレトロな音色を出したトラックも時にエイミーを思わせる。

「エイミーは大好き。でも私はエイミーに起用される以前からマーク・ロンソンといっしょに曲を作っていたのよ。カーディナル・オフィシャルと演った“Magnificent”だって、2005年にマークからトラックを貰ってたしね」。

 エステルいわく、書く曲は「100%実体験」。そんななか、そのすべてを要約した“Shine”をアルバムのタイトルにも用いたという。「みんな、冴えない日もあればクレイジーな経験をすることもある。だけどそんなこんなを振り切って輝いていこうよ、みたいなね」と。そして、いまいちばん輝いているのは、当のエステル本人だ。

「いまはとても楽しい。自分のスタイルとパフォーマンスにも自信が持てるようになった。今後はとにかくビッグに、ひとつのブランド的な存在になれたらいいわね」。

 いや、もはや〈エステル〉というブランドは確立されているだろう。ビッグ・プロデューサーの名が霞むほどに。
▼『Shine』に参加したアーティストの作品を一部紹介。上から、ジョン・レジェン

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年07月03日 20:00

ソース: 『bounce』 300号(2008/6/25)

文/林 剛